【オリジナル】魔法の枕とルナの冒険【目安時間15分】

静かな、静かな、夜の国。

そこは、お月さまの優しい光が、いつもキラキラと降り注いでいる、魔法の世界でした。

この国には、たくさんの小さな妖精たちが住んでいて、夜になると、お星さまの間をふわふわと飛び回りながら、遊ぶのが大好きでした。

でも、この国に住む、ルナという名前の小さな妖精だけは、ちょっぴり困っていました。

夜になって、他のみんなが気持ちよさそうに眠っている時も、ルナの目だけはぱっちりと開いたままなのです。

「どうして、眠れないのかなあ…」

ルナは、自分の小さなベッドの上で、何度も何度も寝返りをうちました。

ふかふかの葉っぱのベッドも、柔らかいお花のシーツも、ルナを眠りの世界へ連れて行ってはくれませんでした。

そんなある日のこと、物知りなフクロウのおじいさんが、大きな丸い眼鏡をくいっと上げながら、ルナに言いました。

「ルナや、眠れないのかい」

「それなら、『夢の森』の奥に住んでいる、枕職人のおじいさんのところへ行ってみるといい」

「あの方なら、世界で一番心地よく眠れる、特別な枕を作ってくださるだろう」

「世界で一番の枕!」

ルナの目は、期待でキラキラと輝きました。

「うん、行ってみる!」

次の日の朝、ルナは小さなポシェットだけを持って、冒険に出かけることにしました。

夢の森は、この夜の国の中でも、一番静かで、一番美しい場所だと言われています。

まずルナがやってきたのは、『ささやきの砂浜』と呼ばれる、不思議な浜辺でした。

ここの砂は、ただの砂ではありません。

夜空からこぼれ落ちた、お星さまのかけらでできているのです。

ルナが裸足で砂浜を歩くと、足の裏が「さら…さら…」と、くすぐったいような、気持ちのいい音を立てました。

耳をすますと、優しい海の音が聞こえてきます。

「ざあ… ざあ…」

それは、まるで海が大きなあくびをしているような、ゆったりとした、穏やかな音でした。

ルナは、その音を聞いているだけで、なんだか少し、まぶたが重くなってくるのを感じました。

浜辺には、小さなガラスの瓶を持った、カニさんたちがいました。

「こんにちは、ルナちゃん。枕の材料を集めているんだって」

「うん。何かいいもの、あるかな」

「それなら、この『星の砂』がいいよ」

「この砂を枕に入れるとね、ちょうどいい重さになって、なんだか抱きしめられているみたいに、安心して眠れるんだ」

カニさんたちは、キラキラと銀色に光る、一番綺麗な星の砂を、ルナのポシェットに「さらさらさら…」と入れてくれました。

「ありがとう、カニさん」

ルナは、ちょっぴり重くなったポシェットを嬉しそうに抱えて、次の場所へと向かいました。

「ざあ… ざあ…」

後ろからは、まだ海の優しい子守唄が聞こえてきます。

ルナは、大きく一つ、あくびをしました。

「ふあぁ…」

次にルナがやってきたのは、『月明かりのハーブ園』です。

そのハーブ園は、まるでお月さまの光を全部集めたみたいに、ほんのりと明るく、優しい香りに満ちていました。

「ふわーん、ふわーん…」

どこからか、甘くて、心が落ち着くような、いい匂いが風に乗って運ばれてきます。

そこでは、ちょうちょさんたちが、ハーブのお世話をしていました。

紫色のラベンダー、白いお花の形をしたカモミール。

どのハーブも、見ているだけで心が安らぎます。

「こんにちは、ルナちゃん。いい香りでしょ」

ひらひらと舞うちょうちょさんが、ルナに話しかけました。

「うん、とってもいい匂い」

「なんだか、心がぽかぽかしてくるみたい」

「それは『夢見るハーブ』だからだよ」

「このハーブの香りをかぐとね、誰でも優しい気持ちになって、素敵な夢が見られるの」

ちょうちょさんたちは、一番香りの良い、摘みたての夢見るハーブを、ルナのポシェットに「ふんわり、ふんわり」と入れてくれました。

ポシェットからは、さっきまでの星の砂のキラキラに加えて、うっとりするような優しい香りが漂い始めました。

「ありがとう、ちょうちょさん」

ルナは、その香りを胸いっぱいに吸い込みました。

すると、心の中のドキドキや、そわそわした気持ちが、すーっと消えていくようでした。

もう一回、大きなあくびが出ました。

「ふあぁ…ふあぁ…」

さあ、いよいよ最後の材料です。

ルナが坂道をのぼっていくと、目の前に広がったのは、真っ白な『ふわふわ雲の牧場』でした。

そこには、空に浮かんでいるあの雲と、全く同じものでできた、もこもこの羊さんたちが、のんびりと草を食べていました。

「めぇ… めぇ…」

羊さんたちの鳴き声も、なんだか眠たそうです。

ルナが、そっと一匹の雲の羊に触れてみると、その毛は、今まで触ったどんなものよりも、柔らかくて、あたたかでした。

「ふわっふわ… もっこもこ…」

まるで、マシュマロの海に指を沈めているような、不思議な気持ちよさです。

羊飼いのうさぎさんが、にこにこしながらやってきました。

「やあ、ルナちゃん。最高の枕を作るんだってね」

「それなら、この子たちの毛を分けてあげるよ」

「いいの?」

「もちろんさ」

「この『雲のわた』を枕に入れれば、頭を乗せた瞬間、まるで雲の上で眠っているような気分になれるんだ」

「どんな寝返りをうっても、いつでも優しく頭を包み込んでくれるよ」

うさぎさんは、一番ふわふわで、一番弾力のある雲のわたを、ルナのポシェットがはちきれそうになるくらい、たくさん「もこもこ、もこもこ」と詰めてくれました。

「ありがとう、うさぎさん」

ポシェットは、星の砂の心地よい重さと、夢見るハーブの優しい香りと、雲のわたの最高の柔らかさで、いっぱいになりました。

ルナは、もう立っているのがやっとなくらい、眠くなってきました。

「ふあぁ…ふあぁ…ふあぁ…」

ついにルナは、夢の森の一番奥にある、枕職人のおじいさんの小さなお家にたどり着きました。

お家は、大きな樫の木の根元に作られていて、屋根からは、きのこの煙突が可愛らしく顔を出しています。

ドアを「とんとん」と叩くと、中から優しい声がしました。

「おはいり、小さな旅人さん」

中にいたのは、真っ白な長いお髭を生やした、とっても優しそうなおじいさんでした。

「よく来たね、ルナ」

「君が来るのを待っていたよ」

おじいさんは、すべてお見通しのようです。

ルナは、集めてきた材料を、おじいさんに差し出しました。

キラキラの『星の砂』

ふわーんと香る『夢見るハーブ』

そして、もこもこの『雲のわた』

おじいさんは、一つ一つを優しく手に取ると、にっこりと微笑みました。

「うん、どれも最高の材料だ」

「これなら、世界で一番の枕ができるだろう」

おじいさんは、まず、夜空をそのまま切り取ってきたような、深い藍色の布を取り出しました。

そして、その布を、優しい手つきで裁ち始めました。

ハサミの音は、うるさくありません。

「しゃらん…しゃらん…」と、まるで鈴の音のように、静かなお部屋に響きます。

次に、おじいさんは、足踏みミシンに向かいました。

ミシンは、古いけれど、とても大切に使われています。

おじいさんがペダルを踏むと、「こと…こと…こと…こと…」と、心地よいリズムを刻み始めました。

その音は、まるで、遠くで聞こえる優しい雨音のようです。

ルナは、その音を聞いているうちに、だんだんと、まぶたがくっついてしまいそうになりました。

「こと…こと…こと…こと…」

ミシンのリズムに合わせて、ルナの小さな頭が、こっくり、こっくりと揺れています。

やがて、枕の形が出来上がりました。

おじいさんは、まず、雲のわたを「ふんわり、ふんわり」と、優しく詰めていきます。

次に、夢見るハーブを「ふわー、ふわー」と、香りが広がるように、中に散らしました。

最後に、星の砂を「さらさらさら…」と、枕全体に心地よい重みが行き渡るように、丁寧に入れていきました。

すべての材料が中に入ると、おじいさんは、最後の一針を、ゆっくりと、ゆっくりと、縫い合わせました。

「ちく、ちく、ちく…」

その針の動きは、まるで魔法のようでした。

そして、仕上げに、おじいさんは完成した枕を両手でそっと持ち上げ、目を閉じて、小さな声で呪文を唱えました。

「おやすみ、おやすみ、いい夢を」

「朝までぐっすり、おやすみなさい」

すると、枕から、ほわーん、と金色の優しい光があふれ出し、お部屋中を暖かく照らしました。

「さあ、できたよ」

「君だけの、特別な魔法の枕だ」

おやすみなさい、ルナ

ルナは、出来上がったばかりの枕を受け取りました。

それは、ほんのり暖かくて、ずっしりと安心する重さがあり、心を落ち着かせるハーブの香りがして、触ると指が沈み込むくらい、ふわふわでした。

「おじいさん、ありがとう」

ルナは、もう眠たくて、お礼を言うのがやっとでした。

おじいさんは、にこにこしながらルナの頭を撫でてくれました。

「もうお帰りなさいとは言わないよ」

「そこのベッドで、ゆっくりおやすみ」

お部屋の隅には、小さな、ルナにぴったりのベッドが用意されていました。

ルナは、ありがとうと小さく頷くと、ベッドにもぐりこみ、新しい枕に、そーっと頭を乗せました。

その瞬間、ルナは、今までに感じたことのないような、幸せな気持ちに包まれました。

頭が、ふわーっと雲の中に沈んでいくようです。

耳元では、星の砂が「さら…さら…」と、ささやきの砂浜の波の音のように、優しく囁いています。

鼻からは、夢見るハーブの甘い香りが、ゆっくりと体の中に入ってきて、手や足の力が、すーっと抜けていくのが分かりました。

ああ、なんて気持ちがいいんだろう。

もう、目は開けていられません。

まぶたが、まるで蜂蜜を塗ったみたいに、ゆっくりと、ゆっくりと、くっついていきます。

さっきまで聞こえていた、おじいさんの優しいミシンの音も、だんだん、だんだん、遠くに聞こえるようになってきました。

ルナの口から、小さな小さな寝息が聞こえ始めます。

「すー… すー…」

それは、世界で一番幸せで、世界で一番気持ちよさそうな寝息でした。

ルナは、魔法の枕のおかげで、生まれて初めて、深く、穏やかな眠りの世界へと旅立っていったのです。

投稿者 まねき猫

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