まんまるおつきさまとふわふわわたげのたび
むかしむかし、空に届きそうなほど高い、モコモコ山のふもとに、小さな小さなお家がありました。
そのお家に住んでいたのは、マメちゃんという、髪の毛がクルクル巻いた、可愛らしい女の子です。
マメちゃんは、窓から見えるお空の景色が一番好きでした。
特に、お空に浮かぶ、大きくて、黄色くて、まるで金のどら焼きみたいなまんまるお月さまを眺めるのが、マメちゃんの毎日の日課でした。
ある日、おばあちゃんが、マメちゃんにそっと話しかけました。
「マメや、もうすぐ、いちねんでいちばんきれいなおつきさまが空にのぼるお月見の夜だよ」
マメちゃんは、目をまんまるにして聞きました。
「おつきみ?それは、どんな夜なの?」
おばあちゃんは、優しくマメちゃんの頭をなでながら言いました。
「お月見はね、遠いお空のお月さまに **『いつも照らしてくれてありがとう』**って、感謝の気持ちを伝える特別な夜なんだよ。
そして、お月さまが喜んでくれるように、まあるいものをたくさんお供えするんだ」
マメちゃんは、ワクワクして言いました。
「わあ!わたし、お月さまにいーっぱいありがとうを言いたい!」
次の日から、マメちゃんは、お月見の準備を始めました。
まず、マメちゃんは、お母さんと一緒に、お月さまの形そっくりの白いお団子を、たくさん作りました。
お米の粉をこねて、小さく丸めて、茹でて…マメちゃんの小さな手のひらに乗るくらいの、コロコロしたお団子が、山のようにできました。
お母さんは、お団子を作るのがとても上手でした。
マメちゃんが丸めたお団子は、少しいびつな形になってしまいましたが、お母さんは「それもマメちゃんのいいところだよ」と、優しく笑ってくれました。
マメちゃんは、一生懸命、コロコロと丸めました。
お団子を丸めるたびに、**「ありがとう」「だいすき」**という気持ちを、お団子の中にそっと込めていきました。
「お月さま、こんなにまんまるだったら、ぜったい喜んでくれるよね!」
お団子を蒸し器で蒸している間、お家の中には、お米の粉の、ほんのり甘い、湯気がいっぱいに広がりました。
その匂いを嗅いでいるだけで、マメちゃんは、なんだか幸せな気持ちになりました。
それから、マメちゃんは、お父さんと一緒に、裏庭の畑へ行きました。
畑には、もうすぐ収穫の丸いお芋や、つやつやの柿がたくさん実っていました。
「お月さまは、まあるい食べものが大好きらしいよ」と、お父さんが教えてくれました。
マメちゃんは、優しく、傷つけないように、大切にまあるいお芋を掘り起こしました。
土の中から、コロンと、きれいな形の紫芋が出てくると、マメちゃんは**「わぁ!」**と歓声をあげました。
「これなら、お月さまもきっと満足してくれるね!」
マメちゃんは、収穫したての、土の匂いのするお芋や、太陽の匂いのする柿を、大事に抱えてお家に戻りました。
お月見の前の日、マメちゃんは、飾り付けに使うすすきを摘みに、モコモコ山の方へ散歩に出かけました。
野原には、風に揺れるすすきの穂が、銀色にキラキラ光っていました。
すすきの葉っぱが、シャー、シャーと、優しい音を立てています。
マメちゃんが、背の高いすすきを、折らないように、そっと根元から摘んでいると、足元で、フワフワと、小さなものが転がっているのを見つけました。
「あれ?なんだろう?」
それは、タンポポの種が、たくさん集まった、真っ白で、丸いわたげでした。
マメちゃんが、そーっと手に取ると、わたげは、羽みたいに軽くて、手のひらに乗せているのに、まるで乗せていないみたいでした。
その時、わたげの中から、**「うーん…ねむい…」**と、小さな、小さな声が聞こえてきました。
マメちゃんは、びっくりして、思わずわたげを落としそうになりました。
でも、その声が、とても穏やかで、怖くない声だったので、マメちゃんは、じっと手のひらを見つめました。
「だ、だれ?」
すると、わたげは、プルプルと揺れて、真ん中から、小さな目と、にこっとした口が現れました。
まるで、小さな雪だるまに、顔がついたみたいです。
「やあ、わたしはワタくんだよ。
風に揺られて、ずーっと旅をしていたんだ」
ワタくんは、とても穏やかで、眠たそうな声をしています。
目を閉じている時間の方が、開けている時間よりも長いみたいです。
マメちゃんは、すぐにワタくんと仲良しになりました。
ワタくんは、風が吹くと、フワフワと宙に浮いて、マメちゃんの周りをゆらゆらと回ってくれました。
ワタくんが回ると、周りの空気も、なんだか優しく、ゆっくりと流れるような気がしました。
マメちゃんは、ワタくんに聞きました。
「ワタくんは、どこへ行きたいの?」
ワタくんは、眠たそうに、目を細めて言いました。
「わたしはね、お空のいちばん高いところまで、行ってみたいんだ。
あそこには、きっと、とびきりやさしいきもちがたくさんあるから」
マメちゃんは、思いました。
「お空のいちばん高いところ、それはきっとお月さまのすぐそばだ!」
「ねえ、ワタくん!あしたの夜は、お月見だよ。
わたしと一緒に、お月さまにお礼を言いに行かない?」
ワタくんは、嬉しそうに、フワフワと大きく揺れて、**「いきたい!お月さまのやさしい光のところへ行きたいな」**と、小さな声で答えました。
マメちゃんは、ワタくんを、大切に小さな箱に入れて、自分のベッドの隣に置きました。
ワタくんは、スー、スーと寝息を立てています。
マメちゃんは、ワタくんが、明日、無事にお月さまのそばまで行けるように、**「お月さまのところまで、どうぞおだやかに運んでね」**と、夜風にそっとお願いしました。
次の日、ついにお月見の夜がやってきました。
夕ご飯を食べて、お風呂に入り、パジャマに着替えたマメちゃんは、準備万端です。
パジャマは、星と月の模様がついた、お気に入りのものです。
マメちゃんは、お母さんとお父さんと一緒に、縁側(えんがわ)に、お団子をきれいに積んだお皿と、丸いお芋や柿を並べました。
すすきも、花瓶に生けて、風が当たると、カサカサと静かな音を立てています。
そして、マメちゃんは、手のひらに、ワタくんをそっと乗せました。
ワタくんは、眠たそうに、**「んー…そろそろだね…」**と、つぶやきました。
夜になり、空がだんだんと深く、濃い青色に変わっていきました。
遠くで、コオロギがリー、リーと鳴いています。
東の空が、少しずつ、少しずつ、優しいオレンジ色の光に照らされていきます。
その光は、まるで、誰かが空に大きなロウソクを灯したみたいに、暖かく見えました。
そして…ポーンと!
まるで、雲のカーテンが、そっと開いたみたいに、まんまるのお月さまが、姿を現しました。
その光は、銀色と金色が混ざったような、とても穏やかで優しい色でした。
お月さまの光は、音もなく、静かに、マメちゃんの村を、モコモコ山を、すべてをそーっと包み込みました。
マメちゃんは、お父さんやお母さんと一緒に、両手を合わせて、心の中で言いました。
「お月さま、いつもわたしたちを照らしてくれて、ありがとう。
おかげで、今日一日、楽しく過ごせました」
その時、マメちゃんの手のひらに乗っていたワタくんが、**「今だ!」**と、小さな声で、でもハッキリと叫びました。
「マメちゃん、ありがとう!さあ、いってくるね!」
ワタくんは、フワフワと、マメちゃんの指先から離れました。
ちょうど、ヒューッと、優しくて、お月さまの方角へ向かう夜風が吹きました。
ワタくんは、その風に乗って、すすきの穂よりも高く、屋根よりも高く、ふわふわ、ふわふわと、ゆっくりと、でも確実に昇っていきます。
マメちゃんは、縁側から身を乗り出して、**「ワタくーん!気をつけて!がんばってね!」**と、心の中で何度も応援しました。
ワタくんは、お月さまの光に照らされて、どんどん小さくなり、やがて夜空に浮かぶ小さな銀色の玉みたいに見えました。
風は、ワタくんを、どんどん高いところへ運んでいきます。
ワタくんは、途中で、キラキラ光る星たちと出会いました。
星たちは、ワタくんがフワフワと昇っていくのを見て、**「やあ、君もお月さまのお客さんかい?」**と、優しく瞬いてくれました。
ワタくんは、**「うん!わたしはマメちゃんのお礼を届けにきたんだ」**と、小さな声で答えました。
星たちは、ワタくんの旅を邪魔しないように、そーっと静かに、道を譲ってくれました。
雲の絨毯(じゅうたん)を通り抜け、星たちの静かな挨拶を受けながら、ワタくんは、ついにお月さまのすぐそばまで辿り着きました。
お月さまのそばは、想像していたよりも、ずっと静かで、温かくて、穏やかな場所でした。
そこには、世界中の優しい気持ちが、うっすらとした光の粒になって、漂っているような気がしました。
ワタくんが、そーっとお月さまに近づくと、お月さまが、にっこりと笑ったように見えました。
「やあ、小さな旅人さん。
遠いところから、よく来てくれたね。
あなたは、マメちゃんの優しい気持ちを運んでくれたんだね」
お月さまの声は、まるで**絹(きぬ)**のように、なめらかで、静かな声でした。
その声を聞いているだけで、ワタくんは、今にも眠ってしまいそうになります。
ワタくんは、マメちゃんから預かった気持ちを、しっかりと伝えました。
「お、お月さま。
わたしはマメちゃんの畑からきました。
マメちゃんがね、**『いつも照らしてくれてありがとう』**って、お礼を言いたかったんです。
マメちゃんの作ったまんまるお団子も、どうぞ召し上がってください」
お月さまは、フフフと、優しく笑いました。
お月さまの笑い声は、銀の鈴が鳴るみたいに、静かで美しい音でした。
「知っているよ、ワタくん。
マメちゃんの優しい気持ちは、光になって、毎日私のところに届いているんだ。
あのお団子も、お芋も、柿も、ぜんぶとても美味しそうだね。
ありがとう」
お月さまは、ワタくんに、遠いマメちゃんの村の様子を教えてくれました。
「あそこをごらん。
マメちゃんは、もう、眠たそうな目をしているね。
すすきの横で、うとうとと、あなたが帰ってくるのを待っているよ」
ワタくんが、下を見ると、マメちゃんの家の縁側で、マメちゃんが、うとうとしながら、空を見上げているのが見えました。
マメちゃんの頭が、カクンと傾きました。
ワタくんは、嬉しくて、少しだけ涙が出そうになりました。
こんなに遠いところまで来て、マメちゃんの優しい気持ちを届けることができて、本当に良かったと思いました。
「お月さま、ありがとうございました。
わたし、いちばんやさしい場所に来ることができました」
お月さまは、ワタくんに、小さな光のかけらを一つ、プレゼントしてくれました。
そのかけらは、お団子みたいに丸くて、ほんのり温かい光を放っていました。
「さあ、ワタくん。
その優しさを、マメちゃんの夢の中に持って帰ってあげなさい。
この光があれば、マメちゃんは、朝までずっと良い夢を見られるよ」
ワタくんは、お月さまにもらった光のかけらを大事に抱えて、また夜風に乗って、ふわふわと下り始めました。
今度は、お月さまからのやさしい光が、ワタくんの帰り道を照らしてくれています。
風は、ワタくんを、そっと、そっと、マメちゃんの家へと運んでくれました。
ワタくんが、マメちゃんの家に着いたとき、マメちゃんは、もうお父さんに抱っこされて、ぐっすりと眠っていました。
お父さんは、マメちゃんをベッドに寝かせると、**「おやすみ、いい夢を」**と、優しく声をかけました。
マメちゃんの顔は、とても穏やかで、幸せそうな寝顔です。
寝息が、スー、スーと聞こえてきます。
ワタくんは、そーっと、マメちゃんの耳元まで飛んでいきました。
そして、お月さまにもらった光のかけらを、マメちゃんのクルクルした髪の毛の中に、そっと置いてあげました。
光のかけらが髪に触れた瞬間、マメちゃんの表情が、さらに穏やかになりました。
そして、**「ふふふ…」**と、小さく笑いました。
マメちゃんの夢の中に、まんまるのお月さまと、ふわふわのワタくんが、一緒にキラキラ輝くお団子を食べる、素敵な夢が広がったのです。
夢の中のワタくんは、眠たそうな顔ではなく、元気いっぱいにマメちゃんと遊んでいました。
ワタくんは、マメちゃんが安心して眠っているのを見届けると、もう一度、お月さまに**「ありがとうございました」**と、心の中で挨拶しました。
そして、またフワフワと夜風に乗って、裏庭のすすきの穂の上で、静かにおやすみをしました。
お月さまの光は、夜が明けて、太陽が昇るまで、ずっとずっと、マメちゃんの家と、村全体を、優しい気持ちで照らし続けました。
次の朝、マメちゃんは、とてもすっきりと目を覚ましました。
なんだか、体がフワフワと軽くなったような気がします。
マメちゃんは、ベッドの横の箱を見ると、ワタくんが、すすきの穂を抱きかかえて、まだスー、スーと気持ちよさそうに眠っていました。
「ワタくん、おかえりなさい。
とっても楽しい夢だったよ」
マメちゃんが、そっとワタくんに話しかけると、ワタくんは、眠ったまま、小さくフワフワと揺れて、**「うーん… お月さまは… やさしかったね…」**と、つぶやいたように聞こえました。
マメちゃんは、これからも、お月さまにたくさんのありがとうを伝えることを心に決めました。
そして、ワタくんが、またお月さまのところへ行きたくなったら、いつでも応援してあげようと思いました。
