むかしむかし、ある緑豊かな森の入り口に、おかあさん豚と、三匹の元気な子豚の兄弟が暮らしていました。
一番上のお兄さん豚は、名前を「いちろう」と言いました。
いちろうは、遊ぶのが大好きで、少しせっかちなところがありました。
「面倒なことは後回し!まずは楽しいことから始めなくっちゃ!」というのが口癖でした。
二番目のお兄さん豚は、「じろう」と言いました。
じろうは、食べることが大好きで、のんびり屋さん。
いちろうほどではありませんが、やっぱり楽な方がいいな、と考える癖がありました。
「お腹がいっぱいなら、それで幸せさ」と、いつもニコニコしていました。
そして、一番下の弟豚は、「さぶろう」と言いました。
さぶろうは、二人の兄さんとは少し違って、物事をじっくり考え、こつこつと努力するのが好きな、真面目な子豚でした。
「今頑張っておけば、きっと未来の自分が楽になるはず」と、いつも先のことまで考えていました。
ある晴れた春の日、おかあさん豚は三匹を優しく呼び寄せました。
「あなたたちも、もうすっかり大きくなりました。これからは、それぞれ自分のお家を建てて、一人前に暮らしていきなさい。
いいかい、世の中には色々なことがあるけれど、何よりも大切なのは、自分の身をしっかりと守れる、安心できる場所を作ることですよ。
目先のことだけにとらわれず、先のことまで考えて、丈夫で安心できるお家を建てるのですよ」
おかあさんの言葉に、三匹は元気よく「はーい!」と返事をしました。
そして、それぞれお弁当と道具を持つと、希望に胸を膨らませて、森の奥へと旅立っていきました。
森を進んでいくと、三匹はそれぞれ家を建てるのに良さそうな場所を見つけました。
一番早く場所を決めたのは、せっかちないちろうでした。
広々とした草原の真ん中、日当たりが良くて、昼寝をするのに最高の場所です。
「よし、ここに決めた!早く家を建てて、お昼寝とフルートの練習をしなくっちゃ!」
そう考えたいちろうの目に、農家の人が刈り取ったばかりの、金色のわらが山積みになっているのが見えました。
「これだ!わらなら軽いし、すぐに組み立てられそうだ。一日もあれば、立派な家が完成するぞ!」
いちろうは農家の人にわらを少し分けてもらうと、わっせわっせと運び、あっという間にわらの家を作り始めました。
ぺたぺたとわらを積み重ね、きゅっきゅっと縄で縛るだけ。本当に簡単で、お昼過ぎには、もう可愛らしいわらのお家が完成してしまいました。
「やった、一番乗りだ!我ながら素晴らしい出来栄えだ。さあ、お昼寝、お昼寝!」
いちろうは早速家の中に入り、ごろんと横になって、満足そうにフルートを吹いていました。
その頃、のんびり屋のじろうも、小川のほとりに素敵な場所を見つけていました。
「川の音が気持ちいいなあ。ここで魚を釣ったり、お昼寝したりしたら最高だろうな」
じろうが周りを見渡すと、きこりが切った木の枝がたくさん落ちているのが見えました。
「そうだ、木の枝を使おう。少し時間がかかるかもしれないけど、これくらいがちょうどいいや」
じろうは木の枝を集めると、トンカントンカンと釘を打って、お家を建て始めました。
わらの家よりは少し時間がかかりましたが、それでも夕方になる頃には、素敵な木の枝の家が完成しました。
「ふう、ちょっと疲れたけど、なかなかいい家ができたぞ。これなら安心だ。さあ、夕ご飯の魚を釣ろうかな」
じろうは得意のバイオリンを弾きながら、上機嫌で釣り糸を垂れていました。
一方、末っ子のさぶろうは、もっと森の奥へと進んでいました。
二人の兄さんが楽しそうに家を建てているのを横目で見ながらも、おかあさんの「丈夫で安心できるお家を」という言葉が、ずっと心に残っていたのです。
「兄さんたちは楽しそうだけど、わらや木の枝の家で、本当に大丈夫なのかな…」
さぶろうがたどり着いたのは、岩がごろごろしている丘の上でした。
ここなら、見晴らしも良く、敵が来てもすぐにわかります。
そして、さぶろうの目には、近くのレンガ工場が映っていました。
赤くて、硬そうで、とても頑丈そうなレンガです。
「これだ!レンガを使おう。時間はかかるだろうし、運ぶのも大変だろうけど、これなら絶対に壊れない、安心できるお家が作れるはずだ」
さぶろうは決心すると、毎日毎日、一生懸命レンガを運びました。
よいしょ、こらしょと汗を流し、セメントをこねて、一つ一つ丁寧にレンガを積み上げていきます。
いちろうやじろうが遊んでいる間も、さぶろうは黙々と作業を続けました。
壁を作り、頑丈な木の扉を取り付け、暖炉と煙突も作りました。
何日もかかって、ようやく、誰が見ても立派な、頑丈なレンガの家が完成しました。
「できた…!時間はかかったけど、これならどんなことがあっても大丈夫だ」
さぶろうは、誇らしげに自分のお家を眺め、ほっと一息ついたのでした。
そんな三匹の様子を、森の茂みからじっと見つめている影がありました。
お腹を空かせた、一匹の悪いオオカミです。
「ふふん、うまそうな子豚が三匹も引っ越してきたわい。まずは、あの一番手前の、わらの家からご馳走になるとするか」
オオカミは、まずいちろうのわらの家へと向かいました。
いちろうが家の中で気持ちよさそうにフルートを吹いていると、ドアがコンコンと鳴りました。
「だあれ?」
「わしだよ、可愛い子豚ちゃん。ドアを開けておくれ」
いちろうがドアの隙間からそっと外を覗くと、そこにいたのは大きなオオカミ!いちろうは真っ青になって叫びました。
「いやだ!開けるもんか!あっちへ行け、悪いオオカミ!」
すると、オオカミは鼻でフンと笑って言いました。
「へん、開けないのかい。それなら、こんな家、ひと吹きで吹き飛ばしてやる!ふーーーーっの、ふーーーーっ!」
オオカミが大きく息を吸い込んで吹きかけると、わらの家はあっという間にバラバラに吹き飛んでしまいました。
「ひええええ!」
いちろうは命からがら、じろうの木の家へと逃げていきました。
「じろう、助けてくれ!オオカミが!」
息を切らして逃げてきたいちろうを、じろうは驚いて家に入れました。
「なんだって?大丈夫だよ、兄さん。僕の家は木でできているんだ。わらの家とは違うよ」
二匹が震えていると、すぐにオオカミがやってきて、またドアをコンコンと叩きました。
「子豚ちゃんたち、中にいるのはわかっているぞ。さあ、出てきなさい」
「いやだ!出ていくもんか!」
「そうかい。なら、この家も吹き飛ばしてやるぞ!ふーーーーっの、ふーーーーっの、ふーーーーーーっ!」
オオカミが前よりももっと強く息を吹きかけると、じろうの木の家は、ミシミシと音を立て、ガッシャーン!と大きな音を立てて壊れてしまいました。
「うわあああ!」
いちろうとじろうは、泣きながら、さぶろうのレンガの家に向かって、必死に走りました。
「さぶろう!開けて!オオカミが来るんだ!」
二人の兄さんが血相を変えて飛び込んできました。
さぶろうは落ち着いて二人を家の中に入れると、すぐに頑丈な木の扉にかんぬきをかけました。
「兄さんたち、もう大丈夫だよ。この家はレンガでできているから」
そうこうしているうちに、オオカミがやってきました。
二匹も子豚を逃がし、すっかり頭に血がのぼっています。
「こざかしい子豚どもめ!ここがお前たちの最後の場所だ!さあ、ドアを開けろ!」
オオカミは、今までで一番大きく、深く息を吸い込みました。
お腹が風船のように膨らみます。
「ふーーーーっの、ふーーーーっの、ふーーーーーーーーーーっ!」
ものすごい風がレンガの家を襲いましたが、家はびくともしません。窓がカタカタと鳴るだけです。
「うぬぬ…もう一回だ!ふーーーーーーーーーーーーっ!」
オオカミは何度も何度も息を吹きかけましたが、レンガの家は、まるで岩のようにどっしりと建っているだけでした。
オオカミは息が切れ、へとへとになってしまいました。
「ぜえ、ぜえ…なんて頑丈な家なんだ…」
しかし、ずる賢いオオカミは諦めません。
「そうだ、いいことを思いついたぞ。煙突から入って、三匹まとめて丸呑みにしてやろう!」
オオカミが屋根に登る音が、カリカリと聞こえてきました。
いちろうとじろうは、もうダメだと抱き合って震えています。
しかし、さぶろうは冷静でした。
おかあさんの言葉を思い出し、もしもの時のために作っておいた、あの大きな暖炉を静かに見つめました。
そして、ひらめいたのです。
「兄さんたち、手伝って!暖炉の火を大きくして、大きなお鍋にお水をいっぱい入れるんだ!」
さぶろうの言葉に、二人の兄さんははっと我に返り、急いで手伝いました。
暖炉には薪がくべられ、大きな鍋はぐつぐつとお湯を沸かし始めました。
屋根の上では、オオカミが煙突を覗き込んで、ニヤリと笑っていました。
「へへん、間抜けな子豚どもめ。今からお前たちの家の中へお邪魔するぞ!」
オオカミはそう言うと、煙突の中へ飛び込みました。
するするーっと滑り落ちていきます。
そして…
ドッボーーーーン!
「ぎゃあああああああ!お尻が、お尻が熱いーーーーっ!」
オオカミは、さぶろうが用意した熱々のお湯が沸いた鍋の中に、見事に落ちてしまったのです。
あまりの熱さに飛び上がったオオカミは、来た時よりもっと速く煙突を駆け上がると、火の玉のように森の奥へと転がりながら逃げていきました。
お尻を真っ赤にしながら、「もう二度と子豚なんか食べるもんかー!」と叫ぶ声が、いつまでも森に響いていたそうです。
こうして、悪いオオカミはいなくなりました。
いちろうとじろうは、助けてくれたさぶろうに、心から感謝しました。
「さぶろう、ありがとう。君のおかげで助かったよ」
「おかあさんの言う通りだった。楽なことばかり考えて、本当に大事なことを見ていなかったのは、僕たちだったんだ」
さぶろうは、にっこり笑って言いました。
「ううん、兄さんたちが無事でよかった。これからは、このお家で三人一緒に暮らそう。三人で力を合わせれば、もっと素敵な毎日になるよ」
それからというもの、三匹の子豚たちは、さぶろうの建てた頑丈なレンガの家で、一緒に暮らすようになりました。
いちろうはフルートを吹き、じろうはバイオリンを弾き、さぶろうはピアノを奏でます。
三匹の楽しい音楽が、いつもレンガの家から聞こえてくるようになりました。
目先の楽しさや、すぐに結果が出ることばかりを追いかけるのではなく、未来の安心のために、こつこつと手間や時間をかけることの大切さ。
三匹の子豚たちは、この出来事を通して、おかあさんが教えてくれた本当の意味を、深く深く理解したのでした。
丈夫なお家が守ってくれる安心感の中で、兄弟仲良く、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
