むかし、むかし、あるところに、それはそれは心やさしいおじいさんと、おばあさんが住んでいました。
二人は毎日とても仲良し。ただ、お家の中はいつも二人きりで、とっても静かでした。
「もし、このお家に元気な子どもの声が響いたら、もっともっと楽しくなるだろうなあ」
二人はよく、そんなことを話していました。
そんなある晴れた日のことです。
おじいさんは、背中にしょいこを担いで、山へ芝刈りに出かけました。
「じいさん、気をつけてな。けがなどしないように」
おばあさんが声をかけると、おじいさんは「おお、ばあさんこそ、川は流れが速いから、足元に気をつけるんじゃよ」と答え、にこにこしながら山の方へ歩いていきました。
おじいさんを見送ったおばあさんは、大きな洗濯桶をよいしょと持ち上げ、近くを流れる川へ洗濯に行きました。川のほとりに着くと、おばあさんは「今日もいいお天気だこと」と独り言を言いながら、汚れた着物を桶から出して、ごしごしと洗い始めました。
せっせ、せっせと洗濯をしていると、川の上の方から、何やら大きなものが流れてくるのが見えました。
「おや? あれはなんだろう」
目をこらしてよく見てみると、それは見たこともないほど大きく立派な桃でした。
つやつやと赤く熟れていて、とてもおいしそうです。
どんぶらこ、どんぶらこ。
どんぶらこっこ、すっこっこ。
大きな桃は、気持ちよさそうに歌でも歌っているかのように、おばあさんのいる方へ、ゆっくりゆっくりと流れてきます。
「まあ、なんて大きな桃なんだろう。うちへ持って帰って、おじいさんと一緒に食べたら、きっとおいしいだろうねえ」
おばあさんはそう思うと、手を伸ばして桃を引き寄せようとしました。
でも、桃は少し遠くて、なかなか手が届きません。そこで、おばあさんは、やさしく手招きをしながら、こんな風に歌を歌いました。
「あーまい水は、こっちだよ。にーがい水は、あっちだよ。こっちの水はあまいから、こっちへおいで、こっちへおいで」
すると不思議なことに、大きな桃は、おばあさんの歌声に誘われるように、くるり、と向きを変えて、おばあさんの足元まで、すーっと流れてきたのです。
「おお、よしよし。いい子だねえ」
おばあさんは大喜びで、その大きな桃を力を込めて抱え上げ、洗濯物の入った桶と一緒に、えっちらおっちら、お家まで持って帰りました。
夕方になり、おじいさんが山から帰ってきました。
「ばあさん、ただいま帰ったぞ」
「おじいさん、お帰りなさい。見てくださいな、すごいものを見つけたんですよ」
おばあさんは、囲炉裏のそばにどっしりと置いてある大きな桃を指さしました。
おじいさんは、目をまんまるくして驚きました。
「こりゃあ、たまげた! こんなに大きな桃は、生まれてこのかた、見たことがないわい。さっそく切って、食べてみようじゃないか」
おじいさんがうれしそうに包丁を持ち出し、おばあさんが桃をしっかりと押さえて、さあ、切ろうとしたその時です。
なんと、大きな桃がひとりでに、ぱかーん!と二つに割れたのです。
そして、その中から、元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!」
桃の中から出てきたのは、それはそれはかわいらしい、玉のような男の赤ちゃんだったのです。
おじいさんとおばあさんは、びっくりして腰を抜かしそうになりましたが、それ以上にとっても嬉しくて、顔を見合わせてにっこり笑いました。
「ばあさんや、わしらがいつも願っていたから、神様がこの子を授けてくださったに違いない」
「ほんとうに、ほんとうに、ありがたいことですなあ、おじいさん。これでこの家もにぎやかになりますね」
二人は、赤ちゃんをそっと抱き上げました。赤ちゃんは、まるでおじいさんとおばあさんのやさしい心がわかったかのように、きゃっきゃっと声を立てて笑いました。
二人は、桃から生まれたこの子に「桃太郎」という立派な名前をつけ、自分たちの本当の子どものように、大切に大切に育てることにしました。
桃太郎は、おばあさんの作るおいしいごはんを、毎日もりもりと食べました。一杯食べると、また一杯。二杯食べると、また一杯。あっという間に大きくなり、すくすくと育っていきました。
そして、食べれば食べるほど、どんどん力が強くなっていきました。村の子どもたちと相撲をとっても、誰にも負けません。
でも、桃太郎は決して威張ったりせず、いつもみんなに親切で、おじいさんやおばあさんの言いつけをよく守る、とても賢くてやさしい子に育ちました。
おじいさんとおばあさんは、元気な桃太郎の笑い声が響く家で、毎日が幸せでたまりませんでした。
桃太郎が十五歳になった年のことです。
ある日、旅の人が村を通りかかり、こんな話をしているのを耳にしました。
「海の向こうにある『鬼ヶ島』というところに、悪い鬼たちが住んでいて、時々こうして村へやってきては、村人をいじめたり、大切な宝物を奪っていったりするそうだ。みんな、とても困っているらしい」
その話を聞いた桃太郎は、ぎゅっと拳を握りしめました。
「なんてひどい奴らだ。よし、僕が決めた!」
桃太郎は、家に帰ると、おじいさんとおばあさんの前にきちんと座って、言いました。
「おじいさん、おばあさん。僕は、鬼ヶ島へ行って、悪い鬼たちをこらしめようと思います。そして、鬼たちが奪っていった宝物を取り返して、村の人たちを助けたいのです。どうか、旅に出ることを許してください」
おじいさんとおばあさんは、とても驚きました。鬼ヶ島は、遠くてとても危険な場所です。かわいい桃太郎を行かせるのは、心配で心配でたまりません。
しかし、桃太郎のまっすぐな瞳は、「必ずやりとげてみせる」という強い決意に満ちあふれていました。
おじいさんとおばあさんは、桃太郎がただのわがままで言っているのではないこと、人々を助けたいというやさしい心から言っているのだということが、よくわかりました。
「わかったよ、桃太郎。お前がそこまで言うのなら、止めはしない。立派な志だ」
おじいさんは、そう言うと、刀置きからぴかぴかの刀を抜き、桃太郎に渡しました。そして、立派な陣羽織と、鉢巻も用意してくれました。
おばあさんは、涙をこらえながら言いました。
「それなら、私が日本一のきびだんごを作ってあげましょう。これを食べれば、百人力の力が出ますからね。お腹がすいたら、これを食べるんですよ」
おばあさんは、心を込めて、おいしい、おいしいきびだんごをたくさん作って、桃太郎の腰につけてあげました。
「おじいさん、おばあさん、ありがとうございます。必ず鬼を退治して、元気に帰ってきます。いってまいります!」
桃太郎は、おじいさんとおばあさんに深々と頭を下げると、元気に家を飛び出しました。背中には「日本一」と書かれた旗が、風にぱたぱたと、力強くはためいていました。
桃太郎が村のはずれまで歩いていくと、向こうから一匹の犬が、「ワン、ワン!」と吠えながらやってきました。
そして、桃太郎の前に座ると、くんくんと鼻を鳴らして言いました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。どこへお出かけですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」
「そうですか。では、その腰につけていらっしゃるものは何ですか?」
「これは、日本一のきびだんごさ」
「まあ、おいしそうですね。それを一つくださいな。もしくださるなら、あなたのお供をして、鬼退治のお手伝いをしますよ」
「よし、わかった。家来になってくれるなら、一つあげよう。これを食べて、僕についてきなさい」
桃太郎は、きびだんごを一つ、犬にあげました。犬は、しっぽをぶんぶん振って大喜び。こうして、犬は桃太郎の最初の家来になりました。
桃太郎が、犬を連れて、山道をとことこ歩いていくと、今度は木の枝から、一匹の猿が「キャッ、キャッ!」と鳴きながら、ひょいと降りてきました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。犬なんか連れて、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」
「ほほう。では、その腰につけている、おいしそうなものは何ですかな?」
「これは、おばあさんが作ってくれた、日本一のきびだんごさ」
「なるほど。では、それを一つくだされ。もしくださるなら、この身軽な体で、あなたのお供をいたしましょう」
「よし、いいとも。家来になってくれるなら、これを一つあげよう。さあ、食べて、僕についてきなさい」
桃太郎は、きびだんごを一つ、猿にあげました。猿は、器用にきびだんごを受け取ると、ぺろりとたいらげました。こうして、猿も桃太郎の家来になりました。
桃太郎が、犬と猿を連れて、野原をずんずん進んでいくと、空の上から、一羽の美しい鳥が「ケーン、ケーン!」と鳴きながら、さっと舞い降りてきました。キジです。
「桃太郎さん、桃太郎さん。犬と猿を連れて、一体どこへ行かれるのですか?」
「これから、鬼ヶ島へ、悪い鬼を退治しに行くところだ」
「それは勇ましいことですな。ところで、あなたの腰にあるそれは、何でございますか?」
「これは、日本一のきびだんごさ」
「どうか、それを一つ、私にもお恵みください。もしくださるなら、この自慢の翼で空を飛び、あなたのお供をいたしましょう。鬼の島の様子を、空から見てきてさしあげます」
「それは頼もしい。よし、これを一つあげよう。家来になって、僕の力になっておくれ」
桃太郎は、きびだんごを一つ、キジにあげました。キジは、くちばしで上手につまむと、ありがたくいただきました。こうして、キジも桃太郎の家来になりました。
こうして、桃太郎は、犬、猿、キジという、三匹の頼もしい家来を連れて、鬼ヶ島を目指して進んでいきました。
しばらく行くと、目の前に大きな海が広がっていました。鬼ヶ島は、この海のずっと向こうにあります。みんなで力を合わせて、大きな船を見つけ出し、いよいよ鬼ヶ島へ向けて出発です。
「さあ、みんな、いくぞ! 鬼ヶ島はもうすぐだ!」
「ワン!」「キャッ!」「ケーン!」
家来たちも、勇ましく声を合わせました。
船が鬼ヶ島に着くと、そこには、黒くて大きな岩でできた、いかめしい門がそびえ立っていました。
門の上では、見張りの鬼が大きなあくびをしています。
「よし、作戦通りにいくぞ!」
桃太郎の合図で、まず、キジがさっと空へ舞い上がりました。そして、見張りの鬼の頭の上をかすめるように飛びました。
「うわっ! なんだ、なんだ!」
鬼が空を見上げて慌てている隙に、身軽な猿が、するするっと高い門をよじ登り、中からかんぬきを外しました。
ギギギィーッ!と大きな音を立てて門が開くと、桃太郎と犬が、先頭に立って中へ駆け込みました。
「日本一の桃太郎が、鬼退治にやってきた! 覚悟しろ!」
桃太郎が大きな声で叫ぶと、中から、赤鬼や青鬼が、金棒を振り回しながら、わらわらとたくさん出てきました。
「なんだ、この生意気な小僧は! やっつけてしまえ!」
鬼たちは、そう言って襲いかかってきました。
さあ、いよいよ決戦の時です。
犬は、鬼の足に「ガブリ!」とかみつきました。
猿は、鬼の背中に飛び乗って、顔を「ガリガリ!」とひっかきました。
キジは、空から舞い降りてきて、鬼の頭を「ケーン!」と鋭いくちばしでつつきました。
三匹の家来たちが大活躍する中、桃太郎も、おじいさんにもらった刀を抜き、大きな鬼たちを相手に、勇敢に戦います。
やがて、鬼たちは、桃太郎たちの見事な連携プレーの前に、次々と降参していきました。
とうとう、残るは鬼の大将、一番大きくて一番強い、赤鬼の親分だけになりました。
「ええい、うるさい奴らめ! 俺様が相手になってやる!」
鬼の親分は、巨大な鉄の金棒をぶんぶん振り回して、桃太郎に襲いかかってきます。
しかし、桃太郎は少しも慌てません。鬼の親分が金棒を振り下ろした瞬間、ひらり、と身をかわし、逆にその腕をぐいっとつかみました。
そして、「えい!」という掛け声とともに、鬼の親分を軽々と持ち上げ、地面にどすーんと投げ飛ばしてしまったのです。
「まいったか!」
桃太郎が、刀を鬼の親分の喉元につきつけると、鬼の親分は、大きな体をぶるぶると震わせて、泣きながら言いました。
「ま、まいった! 参りました! 命だけは、お助けください! もう二度と、悪いことはいたしません。村から奪った宝物は、残らずすべてお返ししますから!」
鬼の親分がそう言って謝るので、桃太郎は刀をしまいました。
「よし、わかった。その約束、必ず守るんだぞ」
鬼たちは、約束通り、今まで村々から奪ってきた宝物を、残らず宝蔵から運び出してきました。きらきらの金銀、美しい珊瑚、まばゆい玉手箱。宝物は、大きな車に山盛りになりました。
桃太郎と三匹の家来たちは、その宝物を積んだ車を引いて、意気揚々と、村への帰り道につきました。
村に着くと、人々は桃太郎たちの姿を見て、大喜びで迎え入れてくれました。
「桃太郎さん、ありがとう!」「よくぞ、鬼を退治してくれた!」
村中が、お祭りのような騒ぎです。
桃太郎は、おじいさんとおばあさんの待つ、懐かしい我が家へと帰りました。
「ただいま戻りました、おじいさん、おばあさん!」
「おお、桃太郎!」「よくぞ、無事に帰ってきてくれた!」
おじいさんとおばあさんは、涙を流して桃太郎を抱きしめました。
桃太郎から鬼退治の話を聞き、持ち帰ったたくさんの宝物を見て、二人はまたびっくり。
でも、何より、桃太郎が怪我一つなく、元気な姿で帰ってきてくれたことが、一番の宝物でした。
こうして、桃太郎は、おじいさんとおばあさん、そして、いつまでも仲良しの犬と猿とキジと一緒に、末永く、幸せに暮らしましたとさ。
