【アンデルセン童話】親指姫【目安時間8分】

むかしむかし、それはそれは心の優しい一人の女性がおりました。彼女には、どうしても叶えたい願いがありました。それは、愛するわが子を持つことです。

「神様、どうか私に、ほんの小さな子でいいから、愛で育てることのできる宝物をください」

そうして、彼女が魔法使いのおばあさんからもらった不思議な大麦の粒を植えたところ、やがてその芽は伸び、美しいチューリップが咲きました。

真紅のつぼみがゆっくりと開くと、その中には、きらきらと輝く小さな女の子がちょこんと座っていたのです。

その子は、大人の親指ほどの大きさしかなかったので、女性は愛を込めて『親指姫』と名付けました。

親指姫は、磨き抜かれたクルミの殻をゆりかごに、お昼は白いお皿の上で女性が歌う歌を聴きながら、それはそれは幸せに暮らしました。

女性の歌声は、澄んだ鈴の音のように美しく、親指姫の心をいつも温かく照らしました。

ある夜のこと、親指姫がクルミのゆりかごで眠っていると、窓の外からひきがえるの母さんが、ぬめぬめとした大きな体で忍び込んできました。

「なんて愛らしい!これを息子の嫁にすれば、きっと息子も喜ぶわ!」

ひきがえるの母さんは、眠っている親指姫を、ゆりかごごとさらい、外の大きな沼へと連れ去りました。

目を覚ました親指姫は、自分が見知らぬ、どろどろとした場所にいることに気づき、あまりの恐怖に震えました。ひきがえるの母さんが、ぶさいくな息子を紹介し、沼の真ん中にあるスイレンの葉を結婚の場所と決め、親指姫をそこに置き去りにした時、彼女は絶望の涙を流しました。

「私は、こんなところで一生を終えるの…?」

しかし、親指姫の流す涙は、周りにいた魚たちの心を動かしました。

魚たちは、小さな女の子があまりに可哀そうで、彼女が乗せられたスイレンの茎を、次々と噛み切ってあげました。

切り離されたスイレンの葉は、川の流れに乗って、親指姫を乗せたまま、どこまでも遠くへと流れていきました。

彼女は、恐怖の中にも、命が助かった安堵と、自由へのほのかな希望を感じました。

親指姫の乗った葉っぱは、美しい森の奥深くへと流れ着きました。

そこへ、ひらひらと美しいコガネムシがやってきて、親指姫の愛らしさにたちまち夢中になりました。

コガネムシは彼女をさらって、木の上の住処へ連れて行きましたが、他のコガネムシたちは、彼女を「足が二本しかない」「気持ちの悪い姿だ」と嘲笑いました。

親指姫の小ささや、元の姿が彼らの美しさの基準に合わなかったのです。

コガネムシは、親指姫への愛情もすぐに冷め、森に置き去りにしました。

親指姫は、森の中でひとりぼっちになり、草の葉を食べて命をつなぎました。

やがて、秋が来て、冬が訪れると、寒さは一層厳しくなりました。

彼女の小さな体は、冷たい風にさらされ、凍えそうになりました。

震えながら、なんとか助けを求めて歩き続けた親指姫は、ついに親切な野ネズミのおばあさんの家にたどり着きました。

おばあさんは親指姫を暖かく迎え入れ、「冬の間、ここで暮らすがいい」と言って、食べ物と寝床を与えてくれました。

親指姫は安堵し、おばあさんの家で、冬の間、針仕事などを手伝って過ごしました。

ある日、おばあさんの家に裕福なモグラがやってきました。

モグラは、穴掘りが得意で、地中の暗いトンネルを住処とするお金持ちでした。

彼は、親指姫の愛らしい姿を一目見て、「これは私の妻にふさわしい」と思い、野ネズミのおばあさんに結婚を申し込みました。

野ネズミのおばあさんは大喜びです。

「こんなお金持ちと結婚すれば、おまえは一生安泰だよ」と親指姫に強く勧めました。

しかし、モグラは「太陽の光なんて、目に入らないから嫌いだ」「地上なんて、なんの価値もない」と言い、親指姫は、明るいお日様と花々を愛する自分には、モグラとの生活は耐えられないと感じました。

モグラの家へと続くトンネルを通らされることになった親指姫は、そこで一羽の傷ついたツバメが横たわっているのを見つけました。

モグラは、ツバメに気づいても、「役立たずの鳥め」と吐き捨てるだけで、気にかけようとしません。

親指姫は、モグラに隠れて、ツバメにそっと温かい干し草の毛布をかけてあげ、わずかな食べ物を運んで、献命的に看病しました。

やがて、ツバメは元気を取り戻し、親指姫に感謝の気持ちを伝えました。

「恩返しがしたい。私と一緒に、暖かい南の国へ行きませんか?」

春になり、ツバメは親指姫を南の国へ誘いましたが、親指姫は、野ネズミのおばあさんに感謝の気持ちを伝えきれていないこと、そしてモグラとの結婚話から逃げる勇気が出ずに、一度はその誘いを断ってしまいます。

しかし、夏が過ぎ、いよいよモグラとの結婚式の日取りが決まると、親指姫はとうとう耐えられなくなりました。

地下の暗闇で、お日様を見ずに暮らすことは、彼女にとって生きることと同じくらい辛いことでした。

「ああ、もう二度と、青い空を見ることができないのね…」

親指姫が悲しみに暮れ、泣きながら最後の別れを告げようと外へ出たとき、元気になったツバメが、再び彼女の前に降り立ちました。

「さあ、迷うことはない。私と一緒に南の国へ行きましょう。そこには、あなたと同じくらい美しいものたちがたくさん待っている」

親指姫は、ツバメの背中にしっかりと抱きつき、モグラと野ネズミおばあさんに、心の中でお別れを告げました。

ツバメは親指姫を乗せて、大空高く舞い上がりました。

二人は、海を越え、山を越え、遥か彼方の暖かい南の国へと辿り着きました。

そこは、一年中花が咲き乱れ、明るい太陽の光に満ちた、まばゆいばかりの楽園でした。

ツバメは、親指姫を、一輪の白い花の上にそっと降ろしました。

その花の上には、親指姫と同じくらいの大きさで、背中に透き通った翼を持つ、ハンサムな花の国の王子様が立っていました。

王子様は、親指姫のあまりの美しさに心を奪われ、優しく語りかけました。

「あなたは、この世で最も美しいお姫様です。どうか私の花園の、すべてのお妃様になってはくださいませんか?」

親指姫は、王子様の清らかで優しい心と、自分と同じ世界を愛する心を知り、心から喜びました。

彼女は、ついに自分の本当の居場所を見つけたのです。

彼女は、王子様と結婚し、頭には花の冠をいただきました。ツバメは、南の国を訪れるたびに、二人の幸せな姿を見て、美しい歌を歌って聞かせるのでした。

親指姫は、小さく生まれた自分を悲しむことなく、ただ自分の心に従って、光と愛に満ちた場所を選び取りました。

親指姫のように、どんなに小さくても、自分の信じる道を、諦めずに探し続けること。

そうすれば、きっといつか、あなたが心から輝ける居場所にたどり着くことができるでしょう。

投稿者 まねき猫

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