【日本昔話】金太郎【目安時間15分】

むかしむかし、足柄山(あしがらやま)の奥深く、人里離れたところに、優しいお母さんと、一人の小さな男の子が暮らしていました。

男の子は、生まれた時から大変丈夫で、普通の赤子とは比べ物にならないほどの元気を持っていました。

お母さんは、この子のことを「金太郎」と名付けました。

金太郎は、成長するにつれて、その並外れた力を発揮し始めました。

普通の子供が持ち上げられないような大きな石も、金太郎は軽々と持ち上げます。

太い木を軽々とかつぎ、険しい山道を駆け上がっていきます。

金太郎は、まだ幼い頃から、いつも真っ赤な顔をして、前掛けをつけ、まさかりを背負っていました。

そして、誰よりも元気いっぱいの声で「おーい!」と叫びながら、足柄山の自然の中を縦横無尽に駆け回っていました。

お母さんは、そんな金太郎を、愛情深く見守っていました。

金太郎は力持ちでしたが、決して乱暴な子ではありませんでした。

むしろ、困っているものがいれば、すぐに手を差し伸べる、心優しい子でした。

ある日のこと、金太郎が山で遊んでいると、大きな木が倒れて、川の流れをせき止めてしまっているのを見つけました。

「これでは、川魚たちが困ってしまうぞ!」

金太郎は、一人で倒れた木に近づくと、力いっぱいに木を持ち上げ、邪魔にならないところへと動かしました。

それを見た川魚たちは、ぴちぴちと跳ねて、金太郎に感謝しているようでした。

金太郎の遊び相手は、山に住む動物たちでした。

大きな熊や、賢い猿、素早い鹿、そして力自慢の猪まで、金太郎はすべての動物たちと仲良しでした。

金太郎は動物たちと相撲を取ったり、力比べをしたりして、毎日楽しく過ごしていました。

金太郎と動物たちは、まるで本当の兄弟のようでした。

金太郎は、熊と相撲を取れば、軽々と投げ飛ばし、猿と木登りをすれば、一番早く木のてっぺんにたどり着きます。

鹿とは駆け比べをし、猪とは力比べをします。そして、金太郎がいつも一番でした。

動物たちは、金太郎の強さと優しさを心から尊敬していました。

「金太郎様は、本当に素晴らしい!」 「私たちの大将だ!」

そんなある日、金太郎と動物たちがいつものように遊んでいると、遠くの森から、何やら騒がしい声が聞こえてきました。

「ガオー!」「ウキー!」「キャイン!」

どうやら、動物たちが喧嘩をしているようです。

金太郎は、まさかりを背負って、騒がしい方へと駆けつけました。

金太郎が駆けつけてみると、そこには、一本の大きな柿の木を巡って、熊と猿と猪が、激しい喧嘩をしていました。

大きな熊は、木の幹にしがみつき、「この柿は、わしが先に見つけたのだ!」

ずる賢い猿は、枝の上から柿をもぎ取り、「そんなことあるか!これはわしのものだ!」

頑固な猪は、地面に落ちた柿を囲んで、「いや、落ちた柿はみんなのものだ!」

みんな、大きな声でわめき散らし、今にも取っ組み合いになりそうでした。

金太郎は、そんな動物たちの姿を見て、深くため息をつきました。

「みんな、やめるんだ!」

金太郎の大声に、動物たちはピタッと動きを止めました。

金太郎は、喧嘩の原因となった柿の木を見上げました。

その木には、赤く熟した美味しそうな柿がたくさん実っています。

「柿は、こんなにたくさんあるじゃないか。どうして喧嘩をするんだい?」

金太郎は、みんなが納得するようにと、名案を思いつきました。

「よし!わしが木に登って、みんなに柿を取ってやろう!そして、みんなで仲良く分け合うんだ!」

金太郎は、するすると木の幹を登っていきました。

まるで猿のような素早さです。そして、大きな木の上の方に実っている、最も美味しそうな柿を、次々と採っていきました。

「ほら、熊さんには大きな柿を!」 「猿さんには、手の届かない高いところの柿を!」 「猪さんには、地面に落ちたものだけでなく、木からも採ってあげるよ!」

金太郎は、動物たちに公平に柿を分け与えました。

動物たちは、美味しい柿をもらって大満足です。

さっきまでの喧嘩は嘘のように、みんなで仲良く柿を食べ始めました。

「金太郎様は、本当にすごい!」 「力持ちなだけでなく、こんなに賢いなんて!」

動物たちは、金太郎の賢さと優しさに、改めて感心しました。

その日から、金太郎は、動物たちのリーダーとして、ますます信頼されるようになりました。

山で何か困ったことがあれば、いつでも金太郎に相談し、金太郎は、その並外れた力と知恵で、どんな問題も解決しました。

金太郎は、まさに足柄山の平和を守る、力持ちのヒーローだったのです。

ある日のことでした。金太郎が、いつものように動物たちと相撲を取って遊んでいると、山道を登ってくる一人の立派な侍の姿を見つけました。

侍は、背筋が伸び、刀を帯び、堂々とした風格です。

しかし、険しい山道に疲れた様子で、額には汗が滲んでいます。

「あれは、誰だろう?」

金太郎は、珍しい人間に興味津々です。動物たちも、警戒しながら侍の様子を伺っています。

侍は、金太郎たちの姿を見ると、驚きのあまり、目を丸くしました。

「お、お前たちは…!まさか、伝説の足柄山の金太郎と、その家来たちか!?」

侍は、金太郎の噂を耳にして、はるばる足柄山を訪ねてきたというのです。

その侍こそ、後に天下の大将となる、源頼光(みなもとのよりみつ)その人でした。

頼光は、金太郎の並外れた力と、動物たちを従える不思議な才能に驚き、ぜひ自分の家来になって、一緒に世の中のために働いてほしいと申し出ました。

「お前さんのような力持ちは、この国には二人といない。ぜひ、わしの家来になって、悪い鬼どもを退治し、人々の平和を守る手助けをしてほしい!」

しかし、金太郎は首を横に振りました。

「私は、この足柄山で、お母さんと動物たちと一緒に暮らすのが一番好きです。それに、私はまだ子供です。侍になるなんて、考えたこともありません」

頼光は、金太郎の素直な心に感銘を受けました。

しかし、どうしても金太郎の力を借りたい。

そこで、頼光は、金太郎に力比べを申し出ました。

「よし、金太郎。では、わしと力比べをしてみないか?もし、わしが勝ったら、お前さんはわしの家来になってほしい。もしお前さんが勝ったら、この山で好きなように暮らしてよい」

金太郎は、頼光の真剣な眼差しを見て、その申し出を受けました。

「望むところだ!やってみよう!」

頼光は、まず、大きな岩を指差しました。

「この岩を、わしよりも高く持ち上げられるか?」

金太郎は、「よいしょ!」と声を上げると、頼光がやっと持ち上げた岩を、まるで羽のように軽々と持ち上げ、頭の上まで持ち上げてみせました。

次に、頼光は、根元から折れた太い木を指差しました。

「この木を、わしよりも遠くまで投げ飛ばせるか?」

金太郎は、まさかりを背負い直すと、折れた木を軽々と持ち上げ、遠くの谷底まで、「えい!」と声とともに投げ飛ばしました。

木は、風を切る音を立てて、遥か彼方へと消えていきました。

頼光は、金太郎の並外れた力に、ただただ感嘆するばかりでした。

「すごい!やはり、お前さんは本物だ!わしは、こんな力持ちを見たことがない!」

頼光は、金太郎の並外れた力に感服し、改めて、自分の家来になってくれるよう懇願しました。

「金太郎。お前さんの力は、この山だけに留めておくのはもったいない。もっと広い世界に出て、その力でたくさんの人を助けてほしいのだ!」

金太郎は、頼光の言葉を聞いて、考え込みました。お母さんのこと、動物たちのこと。この足柄山での楽しい暮らし。すべてが大切な宝物です。

しかし、頼光の熱い眼差しと、世の中の困っている人々を助けたいという思いが、金太郎の心を動かしました。

金太郎は、お母さんのもとへ行き、相談しました。

「お母さん、私は、頼光様と一緒に旅に出て、世の中のために働きたい!」

お母さんは、金太郎の成長を喜びながらも、寂しさを感じました。

しかし、金太郎の決意を尊重し、優しく送り出してくれました。

「金太郎、お前さんが決めたことなら、お母さんは応援するよ。どんなに遠くへ行っても、その優しい心を忘れないで、頑張っておいで」

そして、金太郎は、動物たちにも別れを告げました。

「みんな、わしは旅に出るよ。寂しくなるけれど、いつかきっと、みんなに会いに帰ってくるからな!」

熊は、金太郎の体にすり寄り、猿は、寂しそうに金太郎の肩に乗りました。

猪や鹿も、金太郎の周りを離れようとしません。

動物たちは、大好きな金太郎との別れを悲しみ、涙を流しました。

金太郎も、動物たちとの別れに涙を流しましたが、心を決めて、頼光の元へ戻りました。

頼光は、金太郎を都に連れて帰ると、「坂田金時」という立派な名前を与え、自分の家来の中でも最も信頼できる四天王の一人として迎え入れました。

坂田金時となった金太郎は、その並外れた怪力と、優しい心で、頼光と共に、悪党や鬼たちを退治し、人々の平和を守るために大活躍しました。特に、あの有名な酒呑童子(しゅてんどうじ)退治では、その怪力で鬼を打ち破り、大きな功績を上げました。

金太郎は、故郷の足柄山で培った強い体と優しい心を忘れず、いつまでも、人々から慕われる立派な武士として、語り継がれていったということです。

投稿者 まねき猫

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です