お月さまが まあるいキャンディみたいに空に浮かぶ、ハロウィンの夜。
小さな町の、かぼちゃのランタンが並ぶ道を、子猫のポンはドキドキしながら歩いていました。
ポンは、お母さん猫が作ってくれた、コウモリの耳がついたマントを着ています。
ポンの隣には、いつものお友達、おばけのピーがふわふわと浮かんでいます。
ピーは今日のために、自分の体を少しだけあまいマシュマロの匂いに変えました。
「ピー、ちゃんと『トリック・オア・トリート』って言えるかな?声がちっちゃすぎたら、キャンディもらえないかも!」
ポンは、持っているかぼちゃのバケツをぎゅっと握りました。
ピーは優しく笑います。
「大丈夫だよ、ポン。この町の『トリック・オア・トリート』は、怖い魔法じゃなくて、みんなで優しい気持ちを分け合うための合言葉なんだ」
ふたりが最初にたどり着いたのは、魔女のノアのお家でした。ノアのお家は、屋根から星の光が降ってきていて、とても綺麗です。
ポンは深く息を吸い込んで、ドアをトントンと叩きました。
「トリック・オア・トリート!」
ドアが静かに開きました。ココア色のマントを着たノアが、にっこり笑って立っています。
「あら、ポンとピー!待っていたわよ。怖いいたずらはしないでね。さあ、夢がいっぱい詰まったお菓子をどうぞ!」
ノアがくれたのは、お月さまの形の黄金色のキャラメル。
キャラメルはほんのり温かくて、安心するミルクの匂いがしました。
「わあ、ありがとう!」
「大切に食べるね!」ポンとピーはお礼を言って、次のお家に向かいました。
次のお家は、お庭にたくさんのランタンが灯っている、素敵な家です。
ランタンの光に吸い寄せられるように、ふたりが玄関に近づくと、誰かの泣き声が聞こえてきました。
「ひっく…ひとりで『トリック・オア・トリート』って言うのが、ちょっと恥ずかしいよお」
見ると、小さなフクロウの子が、マントの下で顔を隠しています。
ポンは優しく言いました。
「ねえ、僕たちと一緒に言ってみない?全然怖くないよ」
ピーもフクロウの子の周りをふわふわと浮かんで、マシュマロの優しい匂いで包み込みました。
フクロウの子は、少しだけ顔を出しました。「ほんと?じゃあ、一緒に…」
三人は声を揃えて言いました。
「トリック・オア・トリート!」
中から出てきたのは、優しそうなおじいさんフクロウ。
「おや、元気な探検隊だね!立派に言えたから、ご褒美だよ」
おじいさんフクロウは、フクロウの子に真っ赤なりんごの飴を、ポンとピーには、星の形のやわらかいグミをくれました。
フクロウの子は嬉しそうに、お礼を言って走っていきました。
「ピー、よかったね。僕たちのおかげで、あの子も甘くて楽しい気持ちになれたよ」
ポンは、星のグミをバケツに入れながら言いました。
「トリック・オア・トリート」を何度か楽しんで、ポンのかぼちゃのバケツは色とりどりのお菓子でいっぱいに。
キャラメル、グミ、小さくてキラキラした砂糖菓子…。
お月さまが空の真上に来て、優しい光が強くなりました。
「もう時間だね、ポン」ピーが言いました。
「うん。なんだか、まぶたが重くなってきたよ」
ふたりは、ポンのお家のお庭にそっと戻りました。
お家の窓から、お母さん猫がランタンの光をトントンと叩いています。
「あら、おかえり。たくさん楽しんだのね」
ポンはバケツの中のお菓子を、お母さん猫に見せました。
「見て、お母さん!こんなにたくさん!でもね、一番嬉しかったのは、フクロウの子と一緒に『トリック・オア・トリート』って言えたことだよ」
お母さん猫は優しく微笑み、ポンをぎゅっと抱きしめました。
「偉いわね。ハロウィンは、お菓子を欲しがる日じゃなくて、優しい心をあげる日なのよ」
ピーが、ポンに小さなどんぐりを差し出しました。
「ポン、これを今日のお菓子の上に置いて眠ると、この甘い気持ちが、ぜんぶ暖かい夢になるんだ」
ポンは、お菓子をひとつだけお月さまキャラメルを残して、他のお菓子は明日みんなで分けることにしました。
お月さまキャラメルを舐めながら、ポンはベッドにもぐり込み、どんぐりをバケツの上にそっと置きました。
「ピー、また明日ね。おやすみ」
「おやすみ、ポン。素敵な夢をね」
ピーは、ふわっと消えていきました。
お月さまのミルク色の光が、窓から入り込み、お菓子の詰まったバケツと、コウモリのマントをそっと照らしています。
ポンは、キャラメルの甘い味を感じながら、今日の優しい冒険を思い出し、まぶたを閉じました。
暖かくて、あまくて、優しい夢が、もうすぐ始まるでしょう。
