ぽかぽかおひさまが、もりのようちえんの屋根をきらきらと照らす、気持ちのいい朝です。
うさぎのぴょんくんは、ぴょんぴょん跳ねながら、ようちえんの門をくぐりました。
「おはよう、ごうくん! くるみちゃん!」
ぴょんくんが大きな声で言うと、くまのごうくんと、りすのくるみちゃんがにこにこしながら振り返りました。
「おはよう、ぴょんくん」
「おはよう!」
ごうくんは、のんびりとした優しい声で、くるみちゃんは、元気で可愛らしい声で言いました。
三人がお部屋に入ると、キツネ先生がにこにこ笑って待っていました。
「はい、みんなおはようございます。今日はお天気がいいですね。いよいよ今週末は、待ちに待った運動会ですよ!」
「やったー!」「うんどうかい!」
子供たちはみんな、ぱあっと顔を輝かせ、歓声をあげました。
運動会は、もりのようちえんの一番大きなイベントです。かけっこをして、玉入れをして、みんなで可愛いダンスも踊ります。そして、頑張った子には、園長先生からピカピカの金メダルがもらえるのです。
ぴょんくんは、かけっこのことを考えて、胸がどきどきしていました。
(ぼくは足が速いから、きっと一等賞になれるぞ! 一番大きな金メダルをもらうんだ!)
ぴょんくんの心は、わくわくでいっぱいです。
ごうくんは、少しだけ、もじもじしていました。
(かけっこ、ぼくは走るのがゆっくりだから、大丈夫かなあ。でも、玉入れは頑張るぞ。力持ちだから、たくさん玉を投げられるもんね)
ごうくんは、自分の得意なことを思い出して、ぎゅっと拳を握りました。
くるみちゃんは、お遊戯のダンスのことを考えていました。
(早くみんなで踊りたいな。音楽に合わせてくるくる回ると、お花の妖精さんになったみたいで、とっても楽しいの!)
くるみちゃんは、嬉しくて、思わずその場でくるりと一回転しました。
みんなそれぞれ、運動会に心をときめかせています。
「さあ、みんなでお庭に出て、練習を始めましょう!」
キツネ先生の言葉に、子供たちは「はーい!」と元気よくお返事をして、広いお庭へと駆け出していきました。
それから毎日、運動会の練習が続きました。
かけっこの練習
「よーい、どん!」
キツネ先生の合図で、みんなが一斉に走り出します。
ぴょんくんは、その長い耳をぴんと立て、風のように走ります。あっという間に一番になって、みんなを追い越していきます。
「わあ、ぴょんくん、はやい、はやい!」
みんなが拍手をしてくれます。ぴょんくんは、得意になって、もっともっと速く走りました。
一方、ごうくんは、一生懸命腕を振って、足を動かしますが、なかなかスピードが出ません。
「よいしょ、よいしょ」
いつも、みんなより少しだけ遅れてゴールします。
ある日、練習が終わった後、ごうくんは一人でしょんぼりしていました。
(ぼく、どうしてこんなに遅いのかなあ…)
すると、ぴょんくんがぴょこぴょことやってきました。
「ごうくん、どうしたの?」
「うん…かけっこ、速く走れなくて…」
ごうくんが正直に言うと、ぴょんくんは少し考えてから言いました。
「ごうくんは、いつも最後まで諦めないで走っているよ。それって、とってもかっこいいと思うな! ぼく、ごうくんのこと、いつも応援してるんだよ」
ぴょんくんの言葉に、ごうくんはびっくりしました。そして、胸の奥がぽかぽかと温かくなりました。
「ほんと? ありがとう、ぴょんくん」
次の日から、ごうくんは前よりももっと一生懸備、腕を振って走るようになりました。ゴールは一番じゃなくても、ごうくんの心は晴れやかでした。
玉入れの練習
玉入れは、赤組と白組に分かれて、どちらがたくさんカゴに玉を入れられるかを競います。
ぴょんくんとごうくんは赤組、くるみちゃんは白組です。
最初の練習では、みんなが好き勝手な方向に玉を投げるので、なかなかカゴに入りません。
「えーい!」「こっちこっち!」
玉はあちこちに飛んでいき、カゴは空っぽのままです。
キツネ先生は、にこにこしながら言いました。
「みんな、よーくカゴを狙って、気持ちを一つにして投げてみましょう。『せーの』で一緒に投げると、たくさん入るかもしれませんよ」
そこで赤組のみんなは、円になって相談しました。
「ごうくんがカゴの近くで投げるのはどうかな? 力持ちだから、たくさん入りそうだよ」
「ぴょんくんはジャンプが得意だから、高いところから狙うといいかも!」
みんなでアイデアを出し合いました。
そして、「せーの!」の掛け声で、みんなで一緒に玉を投げる練習をしました。
すると、どうでしょう。さっきまで空っぽだったカゴに、ぽん、ぽん、ぽぽん!と面白いように玉が入るではありませんか。
「やったあ! 入った!」
みんなで顔を見合わせて、大喜びしました。力を合わせることの楽しさを、みんなが感じた瞬間でした。
白組のくるみちゃんたちも、みんなで声を掛け合いながら、上手に玉を入れる練習をしていました。
お遊戯の練習
ようちえんのお庭には、毎日楽しい音楽が流れます。お遊戯のダンスの練習です。
曲は「森の音楽会」。みんなで小鳥さんや蝶々さんになって踊る、とっても可愛いダンスです。
くるみちゃんは、まるで本物の蝶々のように、軽やかにステップを踏みます。
「くるみちゃん、とっても上手ね!」
キツネ先生に褒められて、くるみちゃんは嬉しくて、もっとくるくる踊りました。
ぴょんくんは、元気いっぱいにジャンプ。ごうくんは、大きな体を揺らして、楽しそうに踊ります。
最初はバラバラだった動きも、練習を重ねるうちに、みんなの息がぴったり合ってきました。
みんなで手を繋いで輪になったり、二人組でポーズを決めたり。
みんなで一緒に踊ると、楽しさも何倍にもなります。
お空の上から見ていた小鳥さんたちも、思わず一緒に歌いだすような、素敵なダンスが出来上がっていきました。
練習は、大変な時もあったけれど、みんなで励まし合い、笑い合いながら、運動会の日を指折り数えて待っていました。
運動会の前の日の夜。
ぴょんくんは、お布団に入っても、なかなか眠れませんでした。
(明日はいよいよ運動会だ。かけっこで一等賞になれるかな。転ばないようにしなくちゃ…)
目を閉じると、広いお庭と、たくさんの応援の声が聞こえてくるようです。心臓が、どきどき、どきどきと速くなります。
そっとお部屋のドアが開いて、お母さんうさぎが顔をのぞかせました。
「ぴょんくん、まだ起きてるの?」
「うん…なんだか、どきどきして眠れないんだ」
お母さんは、ぴょんくんの隣にそっと座って、優しく頭を撫でてくれました。
「そうよね、明日だものね。ぴょんくんが毎日、一生懸命練習していたの、お母さんは知ってるわ。かけっこも、玉入れも、ダンスも、とっても上手になったものね」
「うん…」
「だから、明日は大丈夫よ。一番にならなくってもいいの。ぴょんくんが、にこにこ笑顔で、最後まで頑張れたら、それがお母さんにとっての一番の金メダルよ」
お母さんの温かい言葉に、ぴょんくんの心の中のどきどきが、少しずつ静かになっていくのが分かりました。
「楽しんでおいで。お父さんもお母さんも、力いっぱい応援しているからね」
「うん! わかった!」
ぴょんくんは、にっこり笑って、ぎゅっとお母さんに抱きつきました。そして、安心して目を閉じると、すぐにすやすやと可愛い寝息を立て始めました。
その頃、ごうくんのお家でも、くるみちゃんのお家でも、同じように、お父さんやお母さんが、優しく子供たちを励ましてくれていました。
「転んだっていいんだよ。最後までゴールすることが、一番かっこいいんだからな」とごうくんのお父さん。
「くるみちゃんの可愛いダンス、見に行くのがとっても楽しみだわ」とくるみちゃんのお母さん。
みんな、家族の温かい愛情に包まれて、運動会の日の夢を見ながら、ぐっすりと眠りにつきました。
夜空では、お月様がにっこりと笑って、明日のお天気を約束してくれているようでした。
朝です!
ぴかぴかのお日様が、夜の間に降った露をきらきらと輝かせています。雲一つない、最高の運動会日和です。
もりのようちえんのお庭には、たくさんの動物たちが集まっていました。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん。みんな、子供たちの活躍を見ようと、にこにこしながら待っています。
「さあ、いよいよ運動会の始まりです! まずは、元気いっぱい、選手たちの入場です!」
園長先生のフクロウさんの声が響き渡ります。
音楽に合わせて、子供たちが胸を張って行進してきました。赤組の帽子、白組の帽子が、お日様の光を浴びて、とてもきれいです。
ぴょんくんも、ごうくんも、くるみちゃんも、少し緊張した顔をしながらも、一生懸命足を上げて歩いています。
かけっこ
最初の競技は、かけっこです。
ぴょんくんの出番がやってきました。スタートラインに立つと、心臓がまた、どきどきと音を立てます。
(お母さんの言葉を思い出そう。楽しんで、最後まで走るんだ)
「よーい…」
ぴしっと体を構えます。
「どん!」
合図の音と同時に、ぴょんくんは地面を力強く蹴りました。
風がびゅんびゅん耳の横を通り過ぎていきます。
「いけー! ぴょんくん!」「がんばれー!」
みんなの応援が、ぴょんくんの背中を押してくれます。
ぴょんくんは、夢中で走りました。そして、一番にゴールテープを切りました。
「やったー!」
万歳をすると、みんなが大きな拍手をしてくれました。ぴょんくんは、ちょっぴり誇らしい気持ちでいっぱいになりました。
次にごうくんの番です。
ごうくんも、スタートラインで、ぎゅっと唇を結びました。
「よーい、どん!」
ごうくんは、「よいしょ、よいしょ」と、練習の時のように、力いっぱい腕を振って走り出しました。
その時です。ごうくんは、石につまずいて、すてん!と転んでしまいました。
ひざを、少しだけすりむいてしまいました。
一瞬、涙が出そうになったごうくん。でも、その時、応援席からお父さんの声が聞こえました。
「ごうくん、立て! 最後まで走るんだ!」
ぴょんくんとくるみちゃんの「ごうくん、がんばってー!」という声も聞こえます。
ごうくんは、ぐっと涙をこらえて、ゆっくりと立ち上がりました。そして、またゴールに向かって走り出したのです。
みんなはもうゴールしていましたが、誰もごうくんのことを笑いませんでした。
それどころか、「がんばれー!」「あとすこしー!」と、ようちえん中のみんなが、ごうくんを応援し始めました。
ごうくんは、その声援に励まされて、とうとう最後まで走りきることができました。
ゴールしたごうくんには、一等賞よりも大きな、温かい拍手が送られました。
キツネ先生が駆け寄ってきて、優しく頭を撫でてくれました。
「ごうくん、よく頑張りましたね。転んでも、最後まで諦めずに走ったごうくんが、先生は一番かっこいいと思いましたよ」
ごうくんは、ちょっぴり痛かったひざのことなんて忘れて、にっこりと笑いました。
おひるごはん
かけっこが終わると、楽しいお昼の時間です。
みんな、お父さんやお母さんのところに駆け寄って、お弁当を広げます。
ぴょんくんのお弁当には、大好きなにんじんのサンドイッチが入っていました。
ごうくんのお弁当には、大きなおにぎりと、はちみつのデザート。
くるみちゃんのお弁当には、どんぐりの形をした可愛いハンバーグ。
「おいしいね!」「うん、おいしい!」
みんな、お外で食べるお弁当の美味しさに、にこにこ笑顔です。
「ぴょんくん、かけっこ一番、すごかったじゃない」
「ごうくんも、最後までよく頑張ったわね、えらかったわよ」
お父さんやお母さんにたくさん褒めてもらって、みんなの心は、お腹も心も、ぽかぽかに満たされていきました。
おゆうぎ
午後の一番最初のプログラムは、みんなが楽しみにしていたお遊戯「森の音楽会」です。
可愛らしい音楽が流れると、子供たちは、練習通りにきれいに整列しました。
くるみちゃんは、蝶々のようにひらひらと優雅に舞います。
ぴょんくんは、元気な小鳥さんのように、高くジャンプします。
ごうくんは、大きな森のくまさんのように、堂々と、でも楽しそうに体を揺らします。
みんなの動きが、ぴったりと一つになっています。
見ているお父さんやお母さんたちも、手拍子をしたり、目を細めたりしながら、子供たちの可愛いダンスに見入っていました。
曲の最後に、みんなで手を繋いで、にっこり笑ってポーズを決めると、今までで一番大きな拍手が、お庭中に響き渡りました。
みんな、汗びっしょりだったけれど、その顔は満足感で輝いていました。
楽しかった運動会も、あっという間に終わりの時間が近づいてきました。
閉会式では、園長先生のフクロウさんが、みんなの前に立ちました。
「みなさん、今日は一日、本当によく頑張りました。かけっこで一番になった子も、最後まで頑張って走った子も、みんなで力を合わせた玉入れも、心を一つにして踊ったお遊戯も、どれも本当に素晴らしかったです」
園長先生は、にこにことみんなを見渡して、言いました。
「勝ったり負けたり、速かったりゆっくりだったり、そんなことは、たいしたことではありません。一番大切なのは、みんなが一生懸命、心を込めて頑張ったということです。ですから、今日の金メダルは、ここにいる全員にあります。みんな、一人ひとりが、今日の主役です!」
そして、園長先生から、一人ひとりに、ピカピカに光る金メダルが首にかけてもらえました。
ぴょんくんも、ごうくんも、くるみちゃんも、みんな、少し照れくさそうに、でも、とっても嬉しそうに、その金メダルを受け取りました。
メダルは、お日様の光を反射して、みんなの胸でキラキラと輝いています。まるで、みんなの頑張りを褒めてくれているようでした。
お家に帰る道、ぴょんくんは、お父さんとお母さんと手を繋いで歩きました。
首から下げた金メダルが、歩くたびにカランコロンと優しい音を立てます。
「お父さん、お母さん、今日、応援してくれてありがとう!」
「どういたしまして。ぴょんくん、本当にかっこよかったよ」
お父さんもお母さんも、ぴょんくんをたくさんたくさん褒めてくれました。
ぴょんくんは、嬉しくて、心がふわふわと雲の上にいるような気持ちでした。
その夜、ベッドに入ると、ぴょんくんはすぐに眠たくなりました。
今日は、一日中たくさん動いて、たくさん笑って、たくさん応援して、ちょっぴり疲れました。でも、それはとても心地よい疲れでした。
目を閉じると、楽しかった運動会の一日が、順番に浮かんできます。
風のように走ったかけっこ。
みんなで力を合わせた玉入れ。
きらきら笑顔で踊ったダンス。
そして、胸に輝く、ぴかぴかの金メダル。
(ごうくんも、最後まで走れてよかったな。くるみちゃんのダンス、本当にきれいだったな…)
お友達のことも思い出します。
(また来年の運動会も、楽しみだなあ…)
ぴょんくんは、にっこり微笑んだまま、いつの間にか、すー、すー、と静かな寝息を立て始めました。
窓の外では、一番星が、まるでぴょんくんの金メダルみたいに、きらきらと輝いています。
「頑張ったね。ゆっくりおやすみ」
星たちも、優しくささやいているようでした。
