コウキくんは、世界で一番の建築家です。
といっても、コウキくんはまだ小学校にあがったばかりの男の子。
彼が作るものは、本物のビルや道路ではありません。
コウキくんの部屋いっぱいに広がる、カラフルなブロックやピカピカのミニカー、そしてたくさんのおもちゃの仲間たちが、彼の建築材料であり、彼の街の住人なのです。
その日の午後も、コウキくんは床に広げた大きな緑色のマットの上で、新しい街づくりに夢中になっていました。
緑色のマットは、これから生まれる街の豊かな大地です。
「よし、まずは道路からだ!」
コウキくんは、灰色の平たいブロックを次々とつなぎ合わせていきます。
まっすぐな道、ゆるやかなカーブの道、そして街の中心には、車がぐるりと回れるロータリーも作りました。
道路ができあがると、コウリくんは満足そうに頷き、今度は建物を建て始めました。
赤いブロックと青いブロックを交互に積み重ねて、コウキくんとパパとママが住む、大きくて素敵なおうちを作ります。
黄色い屋根を乗せたら、まるでお日様がにっこり笑っているみたいに見えました。
「次は、みんな大好きなお菓子屋さん!」
甘い匂いがしてきそうな、ピンクと白のしましま模様のブロックで壁を作り、透明なブロックを窓にはめ込みます。
お店の中には、小さなケーキやキャンディーのミニチュアを並べました。
ドアの前に来たお客さんが、中を覗いて
「わあ、おいしそう!」と声をあげるのが聞こえるようです。
それから、空に届きそうなほど高い、キラキラ光る銀色のブロックでできたオフィスビル。
たくさんの人形たちが働く場所です。
窓からは、街の景色が一望できるに違いありません。
公園も忘れちゃいけません。
緑のブロックで芝生を作り、カラフルな滑り台と、ゆらゆら揺れるブランコを置きました。
公園の真ん中には、大きな木のブロックを立てて、小鳥の人形をそっと枝に乗せてあげます。
最後に、街の玄関口となる駅を作りました。
長いホームに、カラフルな電車が停まっています。
「ガタンゴトン、ガタンゴトン」と、今にも動き出しそうです。
ミニカーを道路に並べ、クマさんの一家をおうちに、ウサギさんたちをお菓子屋さんに、ライオンの駅長さんを駅に配置すると、コウキくんの街はすっかり命を吹き込まれたようでした。
「よし、完成だ!この街の名前は…『キラキラタウン』だ!」
コウキくんは両手を腰にあてて、胸を張って言いました。
床に広がるキラキラタウンは、コウキくんの想像力が作り出した、世界でたった一つの、最高に素敵な街でした。
キラキラタウンでの毎日は、とても楽しく、にぎやかでした。
朝になると、クマのパパはミニカーに乗って、銀色のオフィスビルへお仕事に出かけます。
ウサギの子供たちは、公園の滑り台を何度も滑って、キャッキャと笑っています。
お菓子屋さんには、甘いものを買い求めるお客さんがひっきりなしにやってきます。
駅からは、たくさんの人形たちを乗せた電車が、隣町へ向けて出発していきました。
コウキくんは、そんなキラキラタウンの神様です。
ミニカーを「ブーン、ブーン」と走らせ、人形たちを動かして「こんにちは!」「いいお天気ですね」とおしゃべりさせます。
お腹が空いたら、お菓子屋さんでケーキを買う真似をして、おうちに持って帰ります。
ところが、そんな平和なキラキラタウンに、初めての問題が起きました。
ある日のこと、コウキくんは救急車のミニカーを手に取りました。
「ピーポー、ピーポー!大変だ!クマのおばあちゃんが、お腹が痛くなっちゃった!急いで病院へ連れて行かなくちゃ!」
コウキくんは、クマさんのおうちの前に救急車を停め、クマのおばあちゃんの人形をそっと乗せました。
そして、サイレンを口で鳴らしながら、病院へと向かわせます。病院は、街の反対側にある白いブロックの建物です。
「ピーポー、ピーポー!どいてください、救急車が通ります!」
勢いよく走り出した救急車でしたが、お菓子屋さんの前で、ピタッと止まってしまいました。
「あれ?」
どうしたのでしょう。
お菓子屋さんは大人気なので、お店の前の道には、お客さんたちのミニカーがたくさん停まっていたのです。
道が狭くて、救急車が通り抜けられません。
「うーん…こっちの道から行こう」
コウキくんは、救急車をバックさせて、別の道を選びました。
今度は、くねくねと曲がりくねった、見た目がとってもお洒落な道です。
コウキくんのお気に入りの道でした。
「ピーポー、ピーポー!」
しかし、救急車は少し車体が長いので、急なカーブをうまく曲がりきれません。
ゴツン!と、道の角のブロックにぶつかってしまいました。
「あいたたた…これじゃあ、先に進めないよ…」
救急車の中から、運転手さんの困った声が聞こえてくるようです。
クマのおばあちゃんは、まだお腹が痛いままです。コウキくんは少し焦ってきました。
「どうしよう…。せっかく作ったかっこいい街なのに、救急車が通れないなんて…」
コウキくんは、なんだか悲しい気持ちになりました。
自分の作った街は、見た目は素敵だけれど、本当に困っている人を助けられないのかもしれない。
その時、また別の問題が起こりました。
「ウー!ウー!カンカンカン!」
今度は、消防車のミニカーの出番です。
銀色のオフィスビルの近くで、小さな火事が起きたという設定です。
「火事だ!早く消しに行かないと!」
消防車は消防署から元気よく飛び出しましたが、やはり、広い道が少ないため、あちこちで他のミニカーに道を阻まれてしまいます。
これでは、火事がどんどん大きくなってしまうかもしれません。
さらに、駅ではこんな困ったことが起きていました。
大きな観光バスが、お客さんをたくさん乗せて駅前のロータリーに入ろうとしました。
でも、ロータリーが小さすぎて、バスのおしりがブロックの建物にぶつかってしまいます。
「うーん、これじゃあ、みんなを降ろしてあげられないなあ」
バスの運転手さんは、すっかり困り顔です。
公園からも、悲しそうな声が聞こえてきました。
「うわーん、ブランコが高すぎて、一人で乗れないよぉ」
一番小さなリスの赤ちゃんが、高すぎるブランコを見上げて泣いています。
コウキくんは、すっかりしょんぼりしてしまいました。キラキラタウンは、楽しいけれど、なんだか「暮らしにくい街」だったのです。
コウキくんは、床に広がるキラキラタウンをじっと見つめました。
お気に入りの建物、かっこいい道路、可愛い公園。
それを壊してしまうのは、とても嫌でした。
でも、お腹が痛いクマのおばあちゃんのこと、火事を消しに行けない消防車のこと、駅で立ち往生しているバスのこと、そして、ブランコに乗れなくて泣いているリスの赤ちゃんのこと…みんなの困った顔が、次々と頭に浮かんできます。
「このままじゃダメだ…」
コウキくんは、ぎゅっと唇を結びました。
「見た目が素敵なだけじゃ、本当に良い街じゃないんだ。
みんなが安心して、楽しく暮らせる街じゃなくちゃ意味がない。
よし、僕がこの街を、もっともっと素敵な街に作り直すんだ!」
それは、コウキくんにとって、とても大きな決心でした。
ただ壊すのではありません。
「改良」するのです。
もっと良くするために、勇気を出して作り変えるのです。
まず、コウキくんが取り掛かったのは、一番の問題だった道路です。
「救急車さん、消防車さん、待っててね。今、広い道を作ってあげるから!」
コウキくんは、お菓子屋さんの前の道路のブロックを、一度全部取り外しました。
そして、今までよりも一列分、広い道路になるようにブロックを並べ直します。
「これだけじゃだめだ。みんなが車を停める場所がないから、道に停めちゃうんだ」
そう考えたコウキくんは、お菓子屋さんの隣にあった小さな花壇のブロックを取り除き、そこに平らな灰色のブロックを敷き詰めました。
「ここが駐車場だよ。みんな、これからはここに車を停めてね」
コウキくんはミニカーを一台一台、丁寧に駐車場に並べてあげました。すると、お菓子屋さんの前の道は、すっきりと広くなりました。
次に、急なカーブの道です。
「ここは、ゆっくり曲がれるようにしないとね」
コウキくんは、カクンと曲がっていた部分のブロックを外し、カーブがゆるやかになるように、斜めの形のブロックをいくつか使って滑らかにつなぎました。
「よし、これで試してみよう!」
コウキくんは、もう一度、救急車をクマさんのおうちから走らせてみました。
「ピーポー、ピーポー!」
救急車は、新しくなった広い道をスイスイと進みます。
お客さんの車が停まっていないので、もうぶつかることはありません。
そして、ゆるやかになったカーブも、スムーズに曲がることができました。あっという間に、病院に到着です。
「やったあ!おばあちゃん、もう大丈夫だよ!」
コウキくんは、まるで自分のことのように嬉しくなりました。消防車も、この道なら楽々と走れます。
次は、駅前のロータリーです。
「バスがゆったり回れるように、もっと大きくしないと」
コウキくんは、駅前の建物を少しだけ後ろにずらして場所を空け、ロータリーを二倍の大きさに作り直しました。
大きなバスも、ゆっくりと、安全に回ることができます。
待っていたお客さんたちは、バスから降りて、駅の改札へと向かっていきました。
最後に、公園です。
コウキくんは、泣いているリスの赤ちゃんのもとへ行きました。
「ごめんね、高くしすぎちゃったね。今、ちょうどよくしてあげるからね」
ブランコのブロックを一度分解し、座る部分が地面に近くなるように、低い位置で組み立て直しました。
リスの赤ちゃんが、自分でひょいと飛び乗れるくらいの高さです。
「ついでに、滑り台も…」
急すぎた滑り台の角度も、もっと緩やかにして、小さい子でも怖くないようにしてあげました。
リスの赤ちゃんは、新しいブランコに乗って、にこにこ顔でゆらゆらと揺れています。
その周りでは、他の小さな人形たちも、安心して滑り台で遊んでいました。
コウキくんは、額の汗をぐいと拭いました。
街のあちこちを作り直すのは、少し大変でした。でも、キラキラタウンは、前よりもずっと、ずっと暮らしやすそうに見えます。
キラキラタウンの住人たちの、楽しそうな笑い声が聞こえてくるようでした。
すっかり日が暮れて、コウキくんの部屋の窓からは、一番星がまたたいているのが見えました。パパが部屋を覗き込みます。
「コウキ、すごい街ができたじゃないか。おや?少し形が変わったかな?」
「うん!」
コウキくんは、誇らしげに胸を張って言いました。
「キラキラタウンを、バージョンアップしたんだ!みんなが暮らしやすいようにね!」
コウキくんは、パパに今日一日のできごとを話して聞かせました。
救急車が通れなかったこと、考えて、道や駐車場を作り直したこと。
バスや公園の問題も、どうやって解決したのかを、一生懸命に説明しました。
パパは、優しくコウキくんの頭を撫でました。
「そうか、すごいなあ、コウキ。ただ作るだけじゃなくて、そこに住むみんなのことを考えてあげたんだな。それこそが、一番大切なことだよ。コウキは、本当に世界一の建築家だ」
パパに褒められて、コウキくんはちょっぴり照れ臭くなりました。
でも、胸の中は、あたたかくて、大きな満足感でいっぱいでした。
新しくなったキラキラタウンは、本当にキラキラと輝いて見えます。
それは、ただブロックが光っているからではありません。
そこに住むみんなへの、コウキくんの優しい気持ちが、街全体を輝かせているのでした。
救急車は、いつでも出動できるように、広い道路の脇で静かに出番を待っています。
バスは、駅のロータリーでぐっすりお休み中。
公園のブランコは、明日の子供たちを待って、星の光に照らされています。
「みんな、おやすみ」
コウキくんは、キラキラタウンの住人たちに、そっとおやすみを言いました。
クマさんの一家も、ウサギさんたちも、ライオンの駅長さんも、みんな幸せな夢を見ていることでしょう。
コウキくんは、パパと一緒におもちゃを片付け(キラキラタウンは壊さずに、そのままです)、ベッドに入りました。
体は少し疲れていたけれど、心はぽかぽかと温かく、達成感で満たされていました。
目を閉じると、キラキラタウンの楽しい景色が浮かんできます。
「明日は、キラキラタウンに学校を作ってあげようかな。
それとも、みんなで楽しめる大きなプールがいいかな…」
新しいアイデアが、次から次へと湧いてきます。
コウキくんの街づくりは、まだまだ始まったばかりです。
やがて、すー、すー、と穏やかな寝息が聞こえてきました。
世界一の小さな建築家は、次なる素晴らしい街の夢を見ながら、深い、深い眠りについていきました。
おやすみ、コウキくん。
おやすみ、キラキラタウンのみんな。
また明日、素敵な一日が待っているよ。
