むかしむかし、それはそれは心の優しいおじいさんとおばあさんがおりました。
二人はいつも穏やかに暮らし、特に正直で働き者のじいさんは、周りの人々からも慕われていました。
ある日、じいさんが山で薪を拾っていると、小さな声が聞こえてきました。
よく見ると、深い穴に落ちて出られなくなった一匹の子犬が震えているではありませんか。じいさんはすぐに子犬を助け出し、家へ連れて帰りました。
「おお、可哀想に。これからはわしの家で、おまえは大切な家族じゃ」
おばあさんも子犬を温かく迎え入れ、夫婦は「シロ」と名付け、大切に育てました。
シロは賢く、愛情深く、二人の生活にたくさんの喜びをもたらしました。
ところが、その村には、正直じいさんの隣に住む、もう一人のおじいさんがいました。
彼は欲張りじいさんと呼ばれ、いつも他人のものを羨んだり、自分だけが得をしようと考えたりする、意地悪な人でした。
欲張りじいさんは、正直じいさんとシロが仲良くしているのを見て、「あの犬は何か特別な宝でも見つけてくるに違いない」と、ひそかに妬ましく思っていました。
ある日のこと、シロが庭で遊んでいると、突然、「ここ掘れ、ワンワン!」と、しきりに地面を掘り始めました。
正直じいさんは、シロの不思議な様子を見て、「どうした、シロや?」と声をかけ、言われるままにその場所を掘ってみました。
するとどうでしょう!そこからは、きらきらと輝く大判小判が、ザクザクと出てきたのです。
正直じいさんとおばあさんは、まさかこんなことが起こるとは思わず、心底驚き、そして喜びました。
「シロや、おまえはなんて賢い犬なんだ!」
二人は、掘り出した小判で、困っている村人たちを助けたり、美味しいものをみんなで分け合ったりと、お金を清く正しく使いました。
そのおかげで、二人の評判はさらに上がり、村中から尊敬されるようになりました。
この話を聞きつけた欲張りじいさんは、すぐに正直じいさんの家へ押し掛けました。
「おい、その犬をわしに貸せ!わしも宝を掘りたい!」
正直じいさんは、あまりの剣幕に戸惑いましたが、シロが不安そうにしているのを見て、「シロを連れて行かないでくれ」と懇願しました。
しかし、欲張りじいさんは耳を貸さず、無理やりシロを連れ去ってしまいました。
欲張りじいさんは、シロを自分の家の庭に連れて行くと、手当たり次第に「ここ掘れワンワン!」と無理やり掘らせようとしました。
しかし、シロは全く反応しません。どんなに怒鳴りつけ、時には蹴飛ばしても、シロはうずくまるばかりです。
やがて、シロが一度だけ、庭の隅で「クン」と鳴いて地面を掘り始めました。
欲張りじいさんは、これ幸いとばかりに、大急ぎでその場所を掘り起こしました。
しかし、出てきたものは、大量のがらくたや石ころばかり。一つも小判は出てきませんでした。
欲張りじいさんは激怒しました。「この役立たずの犬めが!わしを騙しおって!」
そして、怒りにまかせて、かわいそうなシロを、その場で痛めつけてしまったのです。
正直じいさんとおばあさんは、シロが帰ってこないので心配していました。
そこへ、村人が恐る恐るやってきて、欲張りじいさんがシロを殺してしまったことを告げました。
二人は、この上ない悲しみに暮れました。
愛する家族を失った悲しみは、どれほどの大金よりも重いものでした。
「ああ、シロや、おまえはなぜ…」
正直じいさんは、シロが埋められた場所へ行き、涙を流しながら、手厚く葬ってあげました。そして、シロが安らかに眠れるようにと、その場所を大切に守りました。
すると、どうでしょう。
シロが埋められた場所からは、やがて一本の大きな木がぐんぐんと育ち、あっという間に立派な大木になりました。
正直じいさんは、シロが姿を変えて、自分たちのそばにいてくれるのだと感じ、その木をいっそう大切にしました。
ある夜、正直じいさんの夢枕に、シロが現れました。
「おじいさん、私のために作ってくれた臼で、お餅をついてください。そうすれば、またおじいさんに、幸せが訪れます」
夢から覚めた正直じいさんは、半信半疑ながらも、シロが埋められた木を切り、その木で臼を作りました。
そして、その臼で餅をついてみると、なんと、つくたびに臼の中から小判が次々と湧き出てくるではありませんか!
正直じいさんとおばあさんは、この不思議な出来事に、再び喜びの涙を流しました。
そして、今回もまた、その小判を村人たちと分かち合い、みんなが幸せになれるように使いました。
この話もまた、欲張りじいさんの耳に入りました。
「なんだと!あの木から臼を作っただと!?」
欲張りじいさんは、正直じいさんの家へ押し入り、無理やりその臼を奪い取ってしまいました。
そして、自分の家で早速餅をついてみましたが、臼から出てくるのは、汚い泥やゴミばかり。
欲張りじいさんは、怒りのあまり、その臼を斧で打ち壊し、燃やしてしまいました。
臼が燃やされたことを知った正直じいさんは、またも深く悲しみました。
しかし、シロとの思い出が詰まった臼が、灰になってしまったのなら、その灰だけでもと、大事に集めて持ち帰りました。
そして、その灰を庭に撒いたところ、再び不思議なことが起こりました。
「あれ?庭の枯れ木に、花が…咲いている…?」
撒かれた灰に触れた枯れ木が、あっという間に美しい花を咲かせ始めたのです。
正直じいさんは、この不思議な灰の力に気づき、枯れ木に花を咲かせることで、村人たちを喜ばせようと考えました。
「よし、この灰で、枯れ木に花を咲かせよう!」
ある日、正直じいさんが、枯れ木に灰を撒き、見事に花を咲かせていると、たまたま通りかかったお殿様の行列に出会いました。
お殿様は、冬だというのに枯れ木に花が咲いていることに驚き、正直じいさんを呼び止めました。
「おお、これは見事!この枯れ木に、なぜ花が咲くのだ?」
正直じいさんは、これまでの出来事を正直に話しました。
お殿様は、正直じいさんの誠実さと、枯れ木に花を咲かせる不思議な力に深く感銘を受けました。
「おまえは、誠に心清き者である!褒美を授けよう!」
お殿様は、正直じいさんにたくさんの褒美を与え、村人たちも喜びました。
この話を聞いた欲張りじいさんは、またも嫉妬に燃えました。
「あの灰で、わしも褒美をもらうのだ!」
欲張りじいさんは、正直じいさんの家から、残りの灰を盗み出し、お殿様が通る道で待ち伏せしました。
そして、お殿様の行列がやってくると、得意げに枯れ木に灰を撒きました。
しかし、欲張りじいさんが撒いた灰は、花を咲かせるどころか、風に乗って、お殿様の目や顔に舞い上がってかかってしまいました。
「むむっ!なんだこの灰は!けしからん!」
お殿様は激怒し、欲張りじいさんは、褒美どころか、罰を与えられ、村から追い出されてしまいました。
正直じいさんとおばあさんは、その後も村人たちに慕われ、幸せに暮らしました。
そして、春には桜を、夏にはあじさいを、冬には梅を、枯れ木に花を咲かせながら、多くの人々に喜びと笑顔を与え続けました。
シロのくれた不思議な力は、正直じいさんの優しい心を通して、いつまでも村を明るく照らしたのでした。
