ほしのこ な ふしぎな ぼうし
昔々、それはそれは遠くにある、虹色の空が広がる国のお話です。
その国では、誰もが小さな魔法を使うことができました。
例えば、寒い日には、手のひらで暖かな雨を降らせたり。
お腹が空いたら、ふわふわの雲を甘い綿菓子に変えたり。
皆が幸せに暮らしていました。
この国に、コロンという、ちっちゃな坊やがいました。
コロンは、魔法を使うのが大好きな、ちょっぴりいたずらっ子です。
いつも元気いっぱいで、あちこちを駆け回っていました。
コロンが住む家は、きのこの形をしていて、窓からは、朝になるときらきらと光る星の粉が降り注いできました。
この星の粉こそ、この国の魔法の力の元です。
ある朝のことです。
コロンは、いつものように、窓から入ってきた星の粉を、両の手のひらでそっと集めました。
「さて、今日は、何をおまじないしようかな?」
コロンは、ニヤリと笑って、小さな星の粉を、大切に大切に集めている、お母さんの大事な魔法の袋の中に、そっと混ぜ込みました。
お母さんの魔法の袋は、普段は絶対に触っちゃいけない、とコロンは知っていました。
でも、コロンはどうしても、お母さんの魔法がどんな風に変わるのか、見たかったのです。
お母さんが、袋の星の粉を使って、朝ごはんのおまじないを始めました。
お母さんは、小さな声で、「ぽわぽわ、ふわふわ、甘いパンになあれ!」と唱えました。
ところが、お皿の上にあらわれたのは、甘くてふわふわのパンではなくて、ぴょんぴょん跳ねる、緑色のボールでした!
「えーっ!」
お母さんはびっくりして、目を丸くしました。
コロンは、お母さんには叱られないように、こっそり隠れていましたが、お腹の中でくすくす笑ってしまいました。
「なんだか、面白いぞ!」
その日から、コロンは、毎日毎日、小さないたずらを始めたのです。
お父さんが、お仕事のための空を駆ける箒を磨いていると、コロンは箒にこっそり眠気の魔法をかけました。
すると、お父さんが箒に乗って、「ビューン!」と飛び立った途端、箒は途中で「スースー……」と眠ってしまい、お父さんはふわふわの雲の上に、そっと落ちてしまいました。
お隣のお婆さんが、綺麗な花を咲かせる魔法をかけると、コロンはこっそり笑いが止まらなくなる魔法をかけました。
すると、せっかく咲いたお花は、「キャハハハ! ウフフフ!」と、笑い続けて、振り子みたいに揺れ始めました。
皆は、変な魔法にびっくりしながらも、ちょっとだけくすっと笑ってしまいました。
でも、コロンのいたずらは、だんだんと大きくなっていきました。
ある晩のことです。
コロンは、「世界中を、丸ごとびっくりさせちゃおう!」と思い付きました。
コロンは、窓の外で、一番大きくて、きらきら光る星の粉を、そっと掴まえました。
そして、その星の粉に、コロンが持っている全部のいたずらの魔法をかけました。
コロンは、その魔法の星の粉を、魔法の国の真ん中にある、魔法の泉の中に、ポチャンと、静かに浮かべました。
魔法の泉は、この国の全ての魔法の元になっている、大切な泉です。
コロンは、静かに帰って、明くる朝、皆が驚く顔をわくわくしながら待っていました。
次の日の朝、コロンは、頭のてっぺんからつま先まで、ぶるぶると震えました。
空が、虹色ではなく、何も色のない、真っ白な空になっていたのです。
そして、コロンのお母さんが、朝ごはんのおまじないをしようと、小さな声で唱えました。
「ぽわぽわ、ふわふわ、甘いパンになあれ!」
でも、お皿の上はからっぽのままでした。
魔法は、消えてしまったのです。
コロンのお父さんは、仕事へ行くために、空を駆ける箒に乗ろうとしました。
でも、箒はただの木の枝になっていて、飛ぶことができません。
皆も、びっくりして、慌てて魔法を使おうとしました。
「小さなお花、咲け!」と唱えても、お花は咲きません。
「暖かな雨、降れ!」と唱えても、雨は降りません。
皆の目は、悲しみと困った顔でいっぱいになりました。
魔法の国から、虹色の色と、笑い声が、一つずつ、消えていったのです。
コロンは、胸がきゅっとなりました。
「た、楽しいいたずらになるはずだったのに…」
コロンは、もういたずらなんて、したくありませんでした。
コロンは、自分が、とんでもないことをしてしまったのだと、気付いたのです。
コロンは、しょんぼりと、魔法の国の真ん中にある、魔法の泉に行きました。
泉の水は、涙みたいに透明で、きらきらと光っていません。
泉の傍に、この国で一番賢いおじいさんが、しょんぼりと座っていました。
コロンは、恐る恐る、おじいさんに言いました。
「ごめんなさい。僕が、泉にいたずらの魔法をかけた、大きな星の粉を、浮かべちゃったんだ…」
おじいさんは、コロンを優しく見つめました。
「ああ、コロン。そうだったのかい。」
おじいさんは、静かに言いました。
「君が遊びたかった気持ちはわかるよ。でも、魔法というのは、誰かを幸せにするために使わなくちゃいけないんだ。いたずらで使うと、魔法は悲しんで、力をなくしてしまうんだよ。」
コロンは、ポロポロと、涙を零しました。
「どうしたら、魔法は戻るの? 虹色の空に、戻せる?」
おじいさんは、コロンに、不思議な帽子を渡しました。
それは、まるで夜空みたいに、深くて青い帽子でした。
「この帽子は、夢を見る魔法が詰まっているんだ。君が、本当に大切な夢をこの帽子に見せれば、魔法は悲しみから覚めて、元の力を取り戻すだろう。」
おじいさんは続けました。
「でも、夢を見せるには、一番遠くにある、『星の元』まで行って、星の粉を、最初に貰ったときみたいに綺麗な気持ちで、集めてこなくちゃいけない。」
コロンは、ぎゅっと、不思議な帽子を抱きしめました。
「うん! 僕、行くよ! 皆の笑い声を、取り戻すんだ!」
コロンは、大きな勇気を出して、魔法の国を、とぼとぼと歩き始めました。
コロンは、歩いて歩いて、魔法の国の、一番遠くにある、夢の山に辿り着きました。
山のてっぺんには、きらきらと光る、魔法の星の粉が、いっぱい降っていました。
コロンは、小さな手のひらで、そっと、星の粉を集めました。
「お母さんの甘いパン…お父さんの飛べる箒…お婆さんの笑うお花…」
コロンは、今までいたずらで魔法を使ったことを全部思い出しました。
そしてコロンは、「皆が笑ってくれる、嬉しい魔法を使うこと」が、一番の夢なんだと、気付いたのです。
コロンは、集めた星の粉を不思議な帽子にそっと振りかけました。
帽子は、青色から虹色に鮮やかに光り始めました。
コロンは、急いで急いで、魔法の国に帰ってきました。
不思議な帽子は、キラキラ輝いています。
コロンは、その帽子を、魔法の泉に、そっとそっと、静かに浮かべました。
すると、泉の水が、あっという間に、暖かいオレンジ色に光り始めました。
そして、そのオレンジ色の光は、水色、赤色、黄色と、どんどん色を変えて、最後には、虹色に輝きました。
魔法が、戻ってきたのです!
皆は、「わあ!」と、大きな声を上げました。
さっきまで真っ白だった空に、虹色の光が、フワッと広がり、温かい雨が、シトシトと降ってきました。
お花は、「キャハハハ!」と笑いながら、もっともっと綺麗に咲き始めました。
コロンは、おじいさんにぎゅっと抱きついて言いました。
「良かった! 魔法、戻ったよ!」
おじいさんは、にこにこと笑って、コロンの頭をなでなでしました。
それからというもの、コロンはいたずらっ子ではなくなりました。
コロンは、小さな星の粉を集めて、皆を笑顔にする魔法ばかり、使うようになりました。
例えば、寒そうにしている小さな鳥に、ふわふわの暖かい毛糸の魔法をかけたり。
泣きそうになっているお友達に、面白い顔の魔法をかけたり。
魔法の国には、再び虹色の空と、皆の楽しい笑い声が、響き渡るようになりました。
コロンが戻した魔法は、前よりもずっと、優しくて、暖かい魔法になったのです。
コロンは、魔法を使うのは、誰かを幸せにすることなんだと、いつまでも忘れませんでした。
